PR

 モジュール化と水平分業化の動きとして決定的だったのは,2005年に台湾の半導体メーカーであるメディアテックが,GSM携帯電話向けに使いやすいプラットフォームを提供したことだった。チップセットに加えて,参照設計や応用ソフトまでモジュール化して,それさえ買ってくれば特別な技術力がなくても携帯電話を設計できるようにしたものだ。それまでの欧米メーカーによるプラットフォームでは,ある程度技術力のある端末メーカーしかつくれなかったが,メディアテックの「お手軽」プラットフォームを使えば,誰でも簡単に携帯電話が作れるために,零細企業も含めて携帯電話事業に参入が相次いだ。

 この結果として,政府の許可を取らないヤミ携帯が出回ったり,同質化・低価格化競争が激化するといった負の側面もあるものの,多様で安価な端末を消費者に提供するという結果も生んだ。とりわけ,固定電話が普及していない山間部などの貧困地域では唯一の通信手段として,国民の生活レベル向上への貢献度は高かったといえるだろう。

 つまり,国際標準化されたGSM方式は,中国国民の「幸せ」のために貢献しているという側面がある。2006年に発表された欧州の国際競争力構築のフレームワークである「Global Europe」では,国際標準化によってグローバルなマーケットをつくり,「世界の皆が幸せなる」といった美辞麗句がちりばめれれているそうだ。そこには,いかに「内圧」を上げるかという思いが込められているのだろう。

「差異化」をどう組み込む

 このように「内圧」が上がって,新興国の企業に技術が移転し,新興国の国民が技術の恩恵にあずかるのは結構なことではあるが,前述したようにもう一つの重要な課題が,利益の源泉としての「差異化」の部分を組み込んで,もともとの技術を開発し,標準化にも貢献した先進国の企業がその開発投資に見合うだけのリターンを生み出すことである。適正な利益が上げられなければ,次の技術革新を生み出す余裕も出てこない。

 日本のエレクトロニクス産業が苦労しているのもこの点にある。例えば,1996年に実用化されたDVD機器の開発に当たって,「基本技術や製品開発はもとより,市場開拓や国際標準化も日本企業が主導した。にもかかわらず,DVDの大量普及が始まって数年後には,多くの日本企業がグローバル市場で競争力を失った」(小川紘一氏,「新興国に勝つBlu-rayDiscのビジネスモデルを提案する」,『日経エレクトロニクス』,2008年8月25日号,pp.103-115)。これは先行者が持っていた「差異化」の部分が実用化と共に短期間で消失してしまうからだ。

 国際標準化を背景にしてモジュール化と水平分業化が進む中で,市場拡大と利益確保を両立させるのは,至難の業であるが,それをうまく達成したお手本が,欧州におけるGSM方式の標準化プロセスと中国市場への導入のケースだというわけである。