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 サッチャー改革が悪かったのではない。産業の健全性を蝕んでいた既得権益層を、徹底的な民営化を通じて破壊したことこそが英国をよみがえらせた。ところがそれは、同時にイノベーションの「土壌」をはぐくむ場を損なった。実際、ケンブリッジ大学のスタン・オワーズ(Stan Owers)らの研究によれば、英国で出願された特許の数は1991年以来一貫して減り続け、2002年には1991年の半分以下になっている。ドイツ、フランス、米国がほぼ一定水準を保っているのとは顕著な相違が生じている。ちなみに日本は5割増しとなっている。

ケンブリッジへのハイテク集積が英国を救うか

 Library House(写真2)の2006年版ケンブリッジ・クラスター・レポート1)によれば、特許の減少とは裏腹にこのケンブリッジに集まってくるベンチャー企業は、1980年代後半を契機に急激に増加し始めた。1986年までその増加数は年間10社前後と安定的だったものの、1987年ころから顕著な増加に転じ、2001年のピーク時には増加数が年間80社を超えるまでになった。


写真2 Library House。ケンブリッジのハイテク集積の状況を継続的にモニターし、さまざまな情報を発信する団体。ケンブリッジ駅の近くにある。

 2006年時点でケンブリッジ・クラスターを形成しているイノベーション型(innovation-based)企業は、973社である。973社の企業が生み出す年間売り上げは35億5748万ポンド、雇用者総数は2万9019人(1社あたり平均約30人)。売り上げの大きい順に産業セクターを並べると、1位がハードウエア産業(160社)の10億4290万ポンド、2位が創薬・バイオ産業(128社)の7億2896万ポンド、3位がソフトウエア・コンピュータサービス産業(292社)の4億7006万ポンドと、サイエンス型に特化しているとレポートは続く。ある証券会社によれば、ケンブリッジは、ロンドン、パリ、ストックホルム、ダブリンに次いで第5の株取引の場になったという。

 いったい特許の数の著しい減少とハイテク・ベンチャーの著しい増加とは、どのように関係しているのだろうか。