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 ひとつの可能性は、民営化のプロセスで大企業がコスト・センターたる研究・開発部門を切り捨てていき、その結果スピンオフさせられた研究者たちがみずから生きる道を求めて起業していった、というものだ。一方、金融業の興隆によって、1990年代後半以後、ケンブリッジ大学の理系の博士号を取得した優秀な若者の多くは、ロンドンの金融業界に入った。そのため資本市場と技術市場との人的ネットワークが強く形成されて、みずから発明した技術シーズで起業することがシリコン・バレー以上に容易になった。

 ところが特許の数は、安定的な雇用が確保されていないと伸びない。ベンチャー企業は、先端的な技術をシーズとして立ち上がるものの、立ち上がったあとは長期的な研究・開発はほとんどできずに、特許の生産性は大企業に比べると下がってしまう。もっとも、同様のリストラは、米国や日本でも起きた。しかし、英国のリストラはもっと劇的で、人と組織の細分化が徹底的に行なわれてしまったので、特許の数は全体として減少してしまったのではないか、ということだ。

日本企業はケンブリッジ企業とどう連携するか

 以上の現状把握にもとづき、英国と日本の国際関係を中心に将来予測をしてみよう。

 第1に、英国の国際競争力を復活させる鍵は、ケンブリッジに集積したハイテク・ベンチャーの今後の成長にさらに依存するであろう。前出のケンブリッジ・クラスター・レポートによれば、その他にもオックスフォード、エジンバラ、グラスゴー、そしてロンドンに、サイエンス型のベンチャー企業集積が見られるものの、ケンブリッジは突出している。大企業自前主義によるイノベーション・モデルから完全に脱皮した英国は、さらなるオープン・イノベーションに移行するしか道はない。したがって、ケンブリッジ大学は、今後オープン・イノベーションの下での共同研究所の性格をさらに強めていくだろう。

 第2に、日本の大企業とケンブリッジのベンチャー企業の連携は、ますます高まるだろう。なぜなら、研究・開発の場を完全には壊さなかった日本のハイテク企業は、同時に大量生産技術や品質管理を得意とするので、サイエンス型に特化したケンブリッジ・クラスターのベンチャー企業と、互いに相互補完的であるからだ。さらに今回の超円高を契機に「資源を輸入し加工して売る」という古いビジネス・パラダイムから脱却して知的資源にもとづく投資型の企業が、日本でも多数育っていくだろう。