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 今回のシリコン・サイクルの調整で半導体メーカーを悩ませたのは,メモリー価格の暴落による収益の悪化だった。半導体各社は製造コストの低減にこれまで以上に力を入れており,低コスト生産技術への関心は高い。注目を浴びている技術の一つは前回取り上げた計算機リソグラフィであり,もう一つが今回のテーマであるBISTテスターをベースにした“簡易テスター”である。

 BISTはBuilt in Self Testの略で,チップの内部に自己診断用の回路をあらかじめ組み込んでおき,テスター機能の一部を自己診断回路に代替させることで,テスター本体を大幅に小型化・低価格化できる(Tech-On!のEDA用語辞典を参照)。1990年代半ばから研究されていた技術だが,運用には高い技術力が要求される。2005年についに東芝がNAND型フラッシュ・メモリー向けに実用化に成功した。

 イノテックと日本マイクロニクスが,東芝にBIST対応テスターを供給している。年間の購入金額は,好景気の年で両社合わせて60億円程度と推定される。これまで1億~2億円だったフラッシュ・メモリー用の前テスターの価格を,BISTにすることで約1/4に抑えた。2006年以降,半導体製造装置市場全体に占めるメモリー・テスターの割合が低下する一因となっている。

 しかし,BISTテスターにはさまざまな制約がある。BISTの設計・検証にかかる時間を考慮すると,製品寿命の短いデバイスには馴染まない。また,BISTを組み込むことでデバイスの面積が拡大してコスト高になるため,DRAMのように高歩留まりでコスト競争が厳しいデバイスにも馴染まない。BISTが向いているのは,フラッシュ・メモリーのように製品寿命が長く,歩留まりが低いデバイスである。

BISTテスターの衝撃

 BISTテスターの成功は半導体業界に衝撃を与えた。東芝の成功を見たデバイス・メーカーは,「BISTテスター導入によるテスト・コスト削減効果は小さくない」と判断し,BISTの導入を加速しようとしている。

 日本マイクロニクスとイノテックへの引き合いは増加している。ただ,両社は東芝との関係を重視しており,契約を遵守する方針のため,東芝と競合するNAND型フラッシュ・メモリー・メーカーへの拡販は難しいと考えられる。

 BISTテスターの導入を検討している企業は,東芝と協力関係にあるフラッシュ・メモリー・メーカー,少品種・大量生産で製品寿命が長いデバイスを製造するマイクロプロセサ・メーカー,ゲーム機用ICメーカー,汎用FPGAメーカー,汎用ASSPメーカーなどになるだろうと,われわれは考えている。イノテックと日本マイクロニクスが,これらの顧客の獲得に動いている可能性は高い。また,BISTテスターをベースにしたDRAM用の簡易テスターを,日本マイクロニクスが2008年12月に発表している。イノテックはEDAと簡易テスターとの連携による事業領域の拡大という可能性を秘めている。

 逆の言い方をすると,既存のテスター・メーカーは,試練の時を迎えている。アドバンテストが定評のある技術力で,この苦境から脱出できるのか注視したい。横河電機については,別の想いがある。われわれは,低価格テスターで躍進した横河電機に注目し,この企業こそテスターの価格破壊の旗頭になると信じていた時期があった。横河電機が最も勢いのあった1999~2004年の5年間が,同社のテスター事業をさらに一段上のステージへと進化させるチャンスだったが,結局,既存の事業の枠組みから抜け出せなかった。