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ARM社の新しいビジネス・モデル

 サクスビーは、ここで奇想天外なビジネス・モデルを思いつく。従来どおりマイクロプロセサを製造販売するのではなく、マイクロプロセサのアーキテクチャをIP(Intellectual Property, 知的財産権)として他の会社にライセンス供与するという方法である。

 IPのライセンスを売るなどという前代未聞のビジネスがありうるのか。しかしこの方法なら、製品をみずから量産する必要はないので、限られた資源で同じアーキテクチャを複数の会社に売ることができる。

 こうしてIPライセンス・モデルという新しいビジネス・モデルが誕生した。1993年、ARM3を低消費電力型かつ完全32ビット・アドレッシングに再設計した「ちぐはぐ」なARM61)アーキテクチャは1993年、アップル社のPDAであるニュートン(Newton)のマイクロプロセサとして採用された。

 ほどなくアップルによるニュートンのビジネスは、1998年までに敗北に終わる。しかしARMは幸運であった。ちょうど同じ1990年代半ばに、デジタル(第2世代)携帯電話という大きな波がやってきたからだ。

 携帯電話では、低消費電力であることがもっとも重要だ。かつて「ちぐはぐ」と思われていたことが、最強のキーポイントに転じた。しかもIPライセンスというビジネス・モデルが功を奏した。携帯電話機各社は、自社で開発するより安くマイクロプロセサの回路設計を手に入れられる。

 こうしてサムスンやノキアをはじめとする携帯電話機会社がARMアーキテクチャをライセンスし、現在では32ビット・マイクロプロセサを搭載する携帯電話や携帯ゲーム機の85%がARMアーキテクチャ(2008年における主力製品はARM11)を採用している。ARM社の2005年時点での売上高は4億1800万ドル1)。現在ARM社(写真6)は、半導体IP業界で世界1位の企業で2位以下を大きく引き離しているのみならず、携帯電話において事実上のデファクト・スタンダードを獲得している。

写真6 現在のARM本社。ケンブリッジの東の郊外のCherry Hintonにある。
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