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地球もいいけど、まず周囲から

 ウォークマンがiPodとの比較論をされるとき、いつも指摘されるのが「ウェブにつながるという概念に弱かった」という点です。その指摘は確かに正しいのですが、敢えて私はその点は重要でないという立場を取ります。持ち歩く電子器具を何らかのインフラの末端、すなわち水道の蛇口のようにひねれば情報が流れだす末端と見るのか、それとも自分という人間主体の延長と見るのかという議論は以前にこのコラムで書きました。同じ道具でもこちら側から見るのか、あちら側から見るのかで捉え方は大きく異なってきます。

 前に書いたことを要約すると、インフラの末端として捉える見方をする文化圏は世界にごまんとあるのですが、こちら側から見ることができる人たちはあまり多くありません。得意なこちら側の王者の道を極めた方が合っていて楽だし楽しいですよという話でした。携帯電話機を例にとって考えると、ギャルたちが爪を着飾るネールアートと、その爪の先に握りしめたデコ電(デコレーション携帯電話機)の間に心の境界線は薄いということです。あえてつながるつながらない論をするのなら、ネットというバーチャルに利便を求めてつなげるという方向性ではなく、周囲のリアルへの配慮という心のつながりに留意するべしということをここで強調したいと思います。それこそが日本風です。

 リーマン・ブラザーズ破綻以降、さて今から何を開発すればいいんだよという踊り場状態であることを皆が実感しています。生活の便利を求める軸では先進国にはそれほどもはや不便のネタは残っていません。そんな豊潤の中で、とりあえず「環境とエネルギーっていうことらしいゾ」くらいのノリで世界中が一斉に舵をエコの方角に切ってばく進し始めました。

 世界が金融エンジニアリングやらITバブルに踊っていた間に、黙々と日本はエコ技術を蓄えてきました。この期に及んで、ふたを開けてみると、地球の心配というようなヤンゴトナキ上品な領域に最も真面目に取り組んできたのは日本だったということに世界が気付いて、またしてもジェラシーは渦巻くばかりです。何とか楽をして地球を餌に儲けてやろうという連中が世界にはひしめいています。カーボンオフセットの権利売買とか胡散臭い腐臭がムンムンしていますね。

 地球環境ビジネスについては、私は次のようにとらえるのがソニー風、いや日本風だと考えています。それは地球環境問題とは、周囲への配慮の無限大バージョンという捉え方です。周りの人たちへの配慮を、どんどん距離を伸ばしていけば、最後は全人類→全生物→地球全体への配慮となります。そういう見方をすれば逆に、地球全体の心配をする前に、まずは周囲の人たちへの配慮という「日本ならではの機能」を磨いていくことが改めて重要に思えてきます。

 ソニー論については、読売巨人軍と同じでファンの数だけ監督がいるようです。それだけ愛されているソニー。述べてきたソニー論は、もちろんそれだけで全てを説明できるものではありませんが、あまり語られない側面と思い書き記した次第です。

川口盛之助(かわぐち・もりのすけ)
慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社,2008年(第8回)日経BP・BizTech図書賞受賞)がある。
本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。