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 簡単なことをわざわざ小難しく説明したようで全く恐縮ですが、Amazonしかり、Googleパーソナライズド検索しかりの、何でもテーラーメード化されたレコメンドの時代です。この流れ、今後はリアル空間に進出することも約束されています。SuicaのようなRFIDタグやBluetooth、ZigBeeなどの近距離無線技術が普及してくると、生活空間は近距離の無線電波で埋め尽くされることになるでしょう。あらゆるモノやヒトに属性、履歴から好みまでの情報が潜像としてラベルの貼られた状態になるのです。

 商店の側はB定食に食いつきそうな客が店先を通る瞬間を待って無線の網を張り、客の方も自分の周りに自分のお人柄を要約したオーラを纏って歩いています。「30代の証券会社に勤める、初期の村上春樹を好む女性」が識別型式として「H1N1亜型」という潜像世界の看板を背負って歩いてくるような感じです。互いの需給関係がマッチしたら手持ちの携帯端末に「レコメンドされたお知らせ」が配信されます。お客は店先で立ち止まり、確かに自分好みの商材があることに気付かされるという段取りです。

 便利といえば便利ですが、行き過ぎると恐ろしい世界で、顧客の側も気付かぬ間に携帯ナビの画面に誘導されるようになるかもしれません。欲しそうな人だけがその店先やその通りに流れてくる自動整流装置も原理的には可能です。右翼的~左翼的というような思想的なものから、ポルノなどの趣向的なものまで、特定の人たちには「非常に不快な商材」は、そのモノ自体の販売を禁止する方向ではなく、整流技術の発達によって出会い自体を未然に回避することができるかもしれません。仮想空間ではすでに起きていることですが、ここに述べたように無線電波が満ちてくるとリアルにも拡張してくるわけです。

テリー伊藤がやっていること

 さて、話はここからが本論です。情報が氾濫したあげくのはてに類型化レコメンドの世界になる、という文脈においてよく語られる心配事に「多様性の劣化」があります。機械任せの全自動お薦め選択な世界に慣れてしまうと、新しい何かを創出するエネルギーが失われてゆくというジレンマです。お気に入りの情報ばかりがレコメンドされて自分の周りを埋め尽くしている状態とは、心地の良い安心空間でしょう。しかし同時に引きこもりになる一歩手前とも言えます。若者が世の中の多様性に十分に触れる前に、シャッターを降ろしてしまってお気に入り空間にひきこもってしまう。社会インフラを高度情報化した結果、より多くの価値観を身に付けて人間の幅を拡げる方向ではなく、逆に限られた情報にしか触れなくなってしまうとは何とも皮肉な話です。