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 社会が豊かになって、選択肢が増えました。その結果、逆に決められなくなって、自分探しをするモラトリアムな時代になっています。そこに来た高度情報化のインフラは、結局は貴方を類型化して最適に絞り込んだお薦めメニューのオプション提示というあちら側からのレコメンド型になっています。どんどん流されて、心地よいものに囲まれた生活を目指す。不安のない暮らしを追求したはずが、これでよかったのかと逆に不安は増幅する一方です。リスク回避を追求した結果、達成感や充実感が得られないという、実は至極当たり前のジレンマなのです。

 「俺ってこんなことを好きになれる人だったんだぁ」という意外性。自分の中に意外な自分を再発見する喜びとは、かなり高次なマッチング作業のアウトプットと言えるでしょう。それだけに、それがわかった時に感じる充実感はモラトリアムを根こそぎ退治してくれるくらいパンチ力絶大です。この世は複雑系でできていますから、簡単な因果関係で解けるような合理的レコメンドでは、自分の周りに壁を築く一方です。検索エンジンやマイニングのアルゴリズムが、高精度になるほどに、「利便度」や「快適度」は向上するでしょう。しかし同時に「文化度」が下がるという構造になっています。

 テリー伊藤さんが実践する「苦手なものから克服するストイックな反骨アニキ型」、あるいは「伝統しがらみ一本道の頑固オヤジ型」あるいは「だまされたと思ってが合言葉のおせっかいなオバチャン型」などなど、これら愛すべき昭和アナログ・キャラたちの機能を、高度情報化社会にどう取り込むかが今後の課題でしょう。だとすれば、これから技術は利便や快適でなく、文化度を上げるエンジンを目指すことになるのでしょう。いや、ぜひそうあってもらいたいと思うのです。

川口盛之助(かわぐち・もりのすけ)
慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社,2008年(第8回)日経BP・BizTech図書賞受賞)がある。
本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。