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 尾崎家では、塵取りを終えた白皮を、まず打解機と呼ぶ機械に入れる。分厚い杵(きね)が、上下しながら水平方法にゆっくりと回り、白皮を叩いていく機械である。時折、手で白皮をひっくり返し、満遍なく叩かれるよう配慮する。続けることおよそ3時間。これだけではまだ足りない。打解機から取り出した白皮を、今度は長刀(なぎなた)ビーターと呼ぶ機械にかける。17世紀にオランダで発明された、「ホランダービーター」を、和紙向けに改良した機械である。長刀のような細長い刃を周囲に数枚付けた軸が、水中で回転して楮の繊維をほぐす。

 尾崎家では、ビーターに白皮と水を入れる際に、貝を砕いた「胡粉(ごふん)」も加える。書道家の竹田悦堂の依頼で清帳紙を書道向きに漉き始めたときからそうしている。紙の目を詰めるために使う、填料として働くようだ。それまでは、米や白い土を使っていたという。このほか、穴が開いてしまった紙なども、水に浸けてほぐし、ビーターに入れて再利用する。

 長刀ビーターから水とともに出てくる、ほぐれて毛羽立った繊維の塊が、紙を漉く舟に入れる原料である。白皮を叩き水中でかき混ぜることで、楮の繊維を微視的にみると、細かい繊毛に取り巻かれたような状態になる。これをフィブリル化という。紙を漉くと、フィブリル化した繊維が互いに絡まり合い、その結果できる無数の接点で、セルロースの分子同士が水素結合する。これが、絡み合った繊維のシートを紙に変える。

機械の上にある穴にトロロアオイの根を入れると、すりつぶされて下のバケツに入る。
機械の上にある穴にトロロアオイの根を入れると、すりつぶされて下のバケツに入る。(写真:筆者)
トロロアオイの根。(写真:筆者)
トロロアオイの根。(写真:筆者)

 尾崎家では、紙を漉くときに加える粘液――この地では「ノリ」と呼ぶ――も機械でつくる。原料はトロロアオイという植物の根。古くから和紙づくりに広く使われてきた材料である。尾崎あかりが、物心ついた頃からずっとあったという機械に、トロロアオイの根を入れる。モーターで回す、極太のネジのような刃が、ごりごりと根をすりつぶしていく。根っ子を二回機械に通し、水に浸けておくと、次第に粘液が出てくる。この液を布で濾して、ノリとして使う。昔はトロロアオイを槌で叩くのが、子供の冬の義務だった。茂も文故も「あれはイヤだった」と口をそろえる。

 尾崎家では、しばらくトロロアオイも自作していた。しかし、一度病気にかかると畑が使えなくなるなど栽培が難しく、今では他の農家と契約して栽培してもらっている。それでも、毎年の出来高が必要な量に満たないことがある。このため、ピケオールという防腐剤や少量のホルマリンを使って、数年前のトロロアオイを保存している。尾崎家の紙で、唯一薬品を使うところである。「トロロアオイを冷凍すればずっと保存できるって聞いたんで、今度冷凍庫を買おうと思ってるんですよ。そうすれば薬品がゼロになるから、例えば食器の上に載せて使ってもらうとか、用途がもっと広がると思うんです」。