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複数の硬さの異なる地鉄を組み合わせる「複合鍛え」が、日本刀の強靭さを生み出す。
複数の硬さの異なる地鉄を組み合わせる「複合鍛え」が、日本刀の強靭さを生み出す。

 けれどもそれらは、その気になって使えば相当に強力な武器にもなるものだ。ところが膨大にあり、かつ入手も容易であるにもかかわらず、それらが実際に犯罪で使われる例は極めて少ない。それが日本刀の力ということなのか。ある刀匠はこう語ったという。名刀とは「それを見ただけで争いの愚かさを悟らせ、お互いに刀をおさめようという気持ちにさせるもの」なのだと。名刀にあらずとも、正統な製法で作り出された日本刀は、強さや美しさ、そしてその先に、ある種の畏れを感じさせるものであるらしい。

手鎚のみで、刀の形状を打ち出していく。
手鎚のみで、刀の形状を打ち出していく。

 それもあってのことなのだろう。代々の将軍など時の権力者は、名刀を武将たちに恩賞として与えることを常としてきた。もちろん、武器としてではなく、得がたき美術品、崇めるべき存在として。そのような風潮のなかから、その価値を見極める刀剣鑑定の「目利き」、さらには刀剣の魅力に取りつかれた多くの収集家が登場してくる。前者の代表が稀代の芸術家としても知られる本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)であり、後者としては上杉景勝などがいる。景勝は自らのコレクションの中から「御手撰三十五腰」と呼ばれる35振の名刀を選び出して一人悦に入るほどの「日本刀オタク」だったらしい。そういえば大河ドラマ『天地人』の中でも景勝が日本刀の手入れをしているシーンがたびたび登場する。

 こうして、機能と美の双方を備えた日本刀は、振り子のようにいずれかに重みを傾けながら、今日まで生き延びてきた。しかしながら現代に至り、日本刀は武器としての価値を完全に失ってしまった。美術品、あるいは信仰の対象としてしか認められないという、長い歴史の中でも極めて特殊な状態で作り続けられているのである。