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 中東での紛争、100年に1度とわれる最悪の不況、地球温暖化の問題や貧困問題などなど、今こそ人の知恵と建設的な議論、そして協力が欠かせない時期のはずです。ところが、一部の人たちが夢中になっているのは大統領への個人的な攻撃。非常に残念な展開です。

 そうなった一つの理由に、「虎の尾を踏んだ」ということがあるのかもしれません。いま焦点になっているアメリカの医療保険制度は、民間保険会社の手に委ねられています。これを手掛ける保険会社にとっては、アメリカは絶対に手放すことができない巨大市場なのです。それがもし日本のような公的保険制度になったら、彼らは膨大な利益を手放さざるを得なくなります。そんな彼らがこの改革に賛成するはずもありません。

 けれども、現状の保険制度は「完全に壊れている」と言われています。先進国中では最悪な医療制度だと、多くの人たちが指摘しているのです。マクロなデータをみても、そのことは容易に理解できます。WHOのデータによれば、日本ではGDPの8%が医療費として使われています。ところが、アメリカではGDPの17%を払っているのです。けれども、アメリカ人の健康状態は、とてもいいとはいえません。医療費を半分以下しか使わない日本は世界一の長寿国なのに。

 額だけでなく、内情もひどいものです。まず医療保険に加入していない国民は何と5000万人近くに達します。貧しくて保険費が払えない人もいますし、病気をしたおかげで保険に加入できなくなってしまう人も少なくありません。そのことで、悲しい物語がたくさん生まれているのです。最近のニューヨークタイムズに載っていたケースもその一つでしょう。彼女は大学卒で32歳、不幸なことに慢性病(全身性エリテマトーデス)を抱え、段々に弱っていき、次第に仕事ができなくなりました。勤めていないので、保険にもなかなか加入できません。それでも必死で医療保険に入ろうとしたのですが、「すでに病気になっているから」ということで、加入を許可してくれる保険会社はどこにもありませんでした。アメリカの利益優先医療保険制度では、病気の人は保険に入れないのです。

 ほどなく彼女は倒れ、救急患者としてようやく入院がかなったのですが、その段階ではすでに手遅れでした。この慢性病では、ほとんどの場合、適切な治療さえ受けられれば普通に生活を続けることができるといいます。けれど、保険に加入できず、治療を受けられなかったばっかりに、彼女は32歳でその生涯を閉じなければならなくなりました。もし彼女が犯罪者だったら、刑務所に入れてもらえ、速やかに治療を受けられたことでしょう。「病気になったら、犯罪を起こして囚人になるのがおすすめ」と記者も書いています。けれど彼女は残念ながら、治療が受けられないほど善良な市民だったのです。彼女のように、保険に加入していないために治療を受けられず死亡する人は30分に一人、年間では1万8000人に達すると米国科学アカデミーは推測しています。

 先進国の中にあって、アメリカの利益至上主義的保険制度は、残念で残酷な例外です。日本をはじめ、イギリス、ドイツ、フランス、スイスなど、すべての先進国では公的な保険制度が整備されており、病人の命より利益を優先するのはアメリカのみといえそうです。それにもかかわらず、反オバマ・反医療保険軍団は訴えます。「政府によって医療保険が管理されるようになればその運用は官僚的となり、コスト増は避けられない、だからいらない」と。このデマも見当ハズレです。年金受給者や元兵士に向けては、すでに国による医療制度が用意されており、長年の高い実績を誇っています。それなのに「年金受給者向けの保険はいい制度だからぜひ維持してほしいけど、一般向けの公共医療保険は要らない」という矛盾した主張を繰り返す高齢者の方が多いようです。

 このように、徹底的な改善が必要なのは明瞭なことです。なのに、どうして党派を超えた冷静な論争ができないのでしょうか。どうして明らかに間違った発言をするものが話題を独占してしまうのでしょうか。

 「反オバマ」という感情や不況のせいばかりではないでしょう。たとえば一つには、共和党の脆弱化ということがありそうです。自民党にちょっと似ているかもしれません。全くリーダーシップを発揮できる人がいないのです。だから、危険な空間ができてしまったのでしょう。アメリカの場合、その空間を埋めようとしているのは、過激な発言で人気を集めるテレビやラジオのキャスターたちです。キャスターたちは数千万人の視聴者をもち、視聴率を上げるためならどんな発言でもしてしまいます。ある人などは、平気で番組中ずっと怒鳴り続けています。そんな中の一人は、「オバマ政権が成功しないように望んでいる」と発言していました。要するに、自分の政府が大量の課題を解決して我々の人生や国をよくするのではなく、失敗して私たちの国と生活をより悪いものにして欲しいということでしょう。ほとんど病気ですね。

 日本でも新政権が誕生しましたね。決してアメリカの真似をせず、ぜひとも成功してもらいたいと切に願っております。アメリカ人とはいえ、私の生活基盤は日本。むしろこちらの方が切実な問題です。