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 97年に映画化されたパラサイト・イヴの原作者として知られる瀬名秀明氏は、別著『ブレイン・ヴァレー』でその辺りの可能性を小説として広げておられます。昔からよく聞く都市伝説系の超常現象、臨死体験や幽体離脱からUFOによる拉致・アブダクションなどの神秘的体験が、磁場の影響による誤認と設定し、その話と卑弥呼からの系譜、巫女さんの神秘的な超能力の血筋を絡めたストーリー展開になっていて非常に面白いので、脳に興味のある方にはお薦めです。

 現実の社会でも、BMI(Brain Machine Interface)の分野が凄い勢いで発展中です。考えるだけでモニター上のカーソルを上下左右に動かすことはもはや当たり前。先日はトヨタがその技術を転用して自動車の操縦もでき得ることを発表しましたし、東京ゲームショー2009でもBMI操作型の体感ゲームが話題を呼んでいました。さらに京都大学は、頭で思い描いた図形の形状をモニター上に可視化する可能性まで切り拓いてしまいました。夢の可視化も現実味を帯びてきたのが昨今の開発状況です。このBMIの研究もまた、もともとは難病や脊髄損傷などにより身体が不自由な方々の意思表示を助ける技術として研究されてきました。同時に戦闘機の操縦というような軍事技術としての側面も持っています。こちらは強い人向けの開発です。SFアニメでは広く使われるサイコ操縦法ですが、そのうち本当にニュータイプが覚醒するかもしれませんね。障害者や兵士といった、切実な用途向けに開発される脳インタフェース技術を普通の人に流用して得られる「脳力アップ」の効果。TMSを使って書いた論文や、BMIで夢を可視化した芸術作品はドーピングとして取り消しになるのでしょうか?

 家事や移動がメカ技術のおかげで楽チンになり、その分きっちり肉体は衰えメタボになりました。浮かせた時間で何をしているかというと、テレビゲームやら携帯メールで暇つぶしをしています。そのような高等な頭脳作業もBMIやTMSの補助を受けてさらにに楽チンになりそうです。目の前にある作業の効率を上げて、高速に大量処理するのが技術の役目ですから、着実に効率は改善されます。このことを考え詰めると、結局「何のために効率を上げているのか?」というビッグ・クエスチョンに行き着きます。目的なのか手段なのかがよくわからないですね。生きることとは、個々のタスクベースに分解すれば作業や競争の集積。もしそうであれば、あっさりと割り切って効率改善に邁進できますが、何だか変です。

 人生の中で青壮年期には強くなる効率追求や競争原理ですが、対極にある子供や老人の行動原理を振り返ってみるとその辺りがみえてきます。高齢化が進むわが国では、市民大学のような趣味の講座が活況です。身内話で恐縮ですが、家内が都内の区立の市民講座で英会話を教えています。60代から80代後半の方々まで、中には車椅子で参加する受講生もおられます。若者からみれば、「今さらその歳になって英語を習って何に使うつもりなの?」と思うでしょう。受講生に話をうかがっても、特に海外旅行に行く予定もなく、外国人に道端で道を尋ねられた時のために、というわけでもないようです。人と知り合えることが嬉しい、習うこと自体が楽しいとおっしゃいます。何か向上している自己研鑽のプロセスが大事なわけです。「年寄りの手習い」に学ぶべきこととは、目的は自分の向上や社会とのつながりを得る悦びであり、何か直結的な実利の手段ではないということです。後者の社会とのつながりの部分については、日を改めて語るとして、前者すなわち「修練の悦び」の視点で話をまとめましょう。