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 うちの社長、最近、イライラして落ち着きがありません。原因は分かっていて、例の、格付け会社のセイですョ。今どき、どの会社も業績が落ちているのは当り前。それなのに、うちの格付けが一つ落ちたんですナ。困ったもんです、社長もイライラ八つ当たり、被害者が増え続けているてェ事態です。とうとう,アタシにも火の粉が。「佐々木君、うちの評価が落ちたのは、新商品が出てないからじゃあないのか、どうなんだ」。

 しょうがありませんヤネ、こういう時は。ひたすら嵐が過ぎ去るのを待つのが得策てェもんで、「ハイ、開発部長にその旨伝えますので…」。そうは言ったものの、部長がどう言うか、見えてますわナ。案の定、「何ィ、次郎さん、そりゃァないぜ。格付けが落ちたのは、うちの戦略が見えないからで、社長のセイじゃァねェか。第一、おれ達ァ、格付けなんざァどうでいいし、そんなことを気にしてたら、開発なんてやってられねェ!」。ハイ、ごもっとも。アタシだって同感。そもそも、開発なんざァ格付け会社のためにしているんじゃァありませんヤネ。お客様に喜んでもらうためにするてェもんです。開発部長が怒るのは当り前。

 さてさて、そういうわけでお怒りを納めるための儀式になりまして、くだんの赤提灯、イソイソとノレンをくぐろうてェことになりました。

 飲むほどに、「ところで次郎さん、一体、格付け会社てェのは何様だァ。何の権利があって、人様の会社を勝手にランキングするんだよ」、酔うほどに、「大体、あのリーマンだって、それまでは最高レベルの格付けになっていたんじゃあねェか。それなのに、ええェ、次郎さんよ、つぶれちまってもおとがめナシ。誰の責任なんだ!」と、開発部長。アタシにつっかかってもしょうがない。それは分かっていても、言われればそうですナ。確かに、格付け会社のそれまでの評価、全部ハズレじゃァ、ありませんか。

 よく考えると、アタシ達もいけませんヤネ。自分で判断しないで、格付け会社や信用調査会社の評点をアテにしていたてェわけで、他人任せだったのですナ。きっと、無意識の中で、自分の判断が間違ったらイヤなので、あるいは責任逃れを考えて、そんな格付け会社をアテにしちまったのかもしれません。

 昔、格付け会社なんざァなかったころ、取引先や、これから関係する会社の信用をチェックする時は、相手の様子をしっかりと確かめて、結局、自分の感触や自分の判断をアテにしたもんですョ。もしも、それが外れたら、それはそれで勉強。知恵が付いて、一回り大人になるてェもんですよ。そんな話をしていたら、部長が突然、「次郎さん、どうよ、おれ達で格付け会社の格付けをしようじゃあねェか」。「シャクだから、勝手にこっちで決めちまうのサ。あれだけ有名な格付け会社がハズレるんだから、おれ達がハズレたって、誰も文句はないだろうョ」。

 面白いことになってきましたナ。格付け会社の格付け、本当にできたら面白いじゃありませんかねェ。そういうわけで、部長のお怒り、少しは収まってきたようです。

 そこに、またまた突然、「お待たせェ、何よ、すっかり盛り上がっちゃって、どんな話してたのよォ?」。「おいおい、お局、一緒に飲む約束なんかしてねェだろう」。そんなことは見事に無視、二軒目でしょうか、ほろ酔いのお局の乱入です。

 「それって、面白いわねェ。大賛成!」。どうやらこの話、お局も気に入ったようですナ。続けて、「大体、うちの社長、気にしすぎよゥ。多分、格付け会社の社員なんて、きっと、飲みながら、エイッヤッ、で決めてるんじゃない?」。「じゃなくちゃ、他人の会社の生死にかかわる格付けなんて、決められるわけないじゃない。それを、いちいち気にするなんて、うちの社長、ハラが座っていないのよ!」。ますます激しくなって、ラストオーダーの時間に。

 「アタシね、人の評価には自信があるの。間違ったことなんて、今までないんだから…」。すごいもんですナ、お局の人生は。そう言われれば、聞きたくなるのが人情です。「で、秘訣てェのはあるのかい?」。居住まいを正して、お局いわく、「目よ、相手の目を見て判断するのョ。じっと、相手の目を見れば、それですべてが分かるのよ」。そうして、アタシ達二人をジイッとにらむんです。

 お局ににらまれて、アタシも部長も、なぜか、目を合わせることができないんですナ。情けねェ、にらまれたカエルになっちまいましたョ。タジタジ…。