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 国内外のブログを読むと、クリス派かのり子派にハッキリと分かれている。ただあえていえば、日本ではこのニュースがほとんど無視されてきたこともあり、自分には関係が薄い問題と思われるのか、愛国主義的で感情的な反応を示す方が少なからずおられるように思う。

 「どうして彼の話だけが報道され、のり子さんの言い分は伝えようとしないのか」という反応もあった。私も一方的な報道はよくないと思う。そこで、のり子さんの実家を必死に探し、やっと彼女が暮らす家を見つけた。しかしそこには、のり子さんや子供の気配は全くなかった。彼女と直接話すチャンスはないようなので、彼女の親に2回ほどインタビューをお願いしたけど、強硬に断られた。そんなことで、残念ながらのり子さんやのり子さんサイドの話を聞くことはできなかったのである。

 「クリスバッシング」のブログによると、「彼は浮気をし、それが原因で離婚ということになったのだから、彼が子供を失うのは当然なこと」なのだそうだ。私は15分しか本人と会っていないので、彼の人物像について自信をもって語ることはできない。けれど印象としては普通の方で、ほかの離婚と同じようにただ、二人の人間の関係が時間の経過とともにうまくいかなくなった、ということにすぎないように思う。あまねくそうであるように、双方ともそれなりの言い分はあるはずだ。

 ただ、それがどのようなものであるにしても本件の本質とは関係がない。自分が子供の親であるということと、自分たちの離婚の理由とは、本来別のことだからである。どんな理由で別れることになったとしても、親が自分の子供と会えるのは当然のことだろう。

 問題は、親権である。現在の日本の法律は理不尽で、子供にも、親にも、非常に残酷なものだと思う。もしのり子さんが日本人ではなければ、この悲劇が全く別な結末になったはずだ。欧米を中心とした、日本以外のほぼすべての先進国では、離婚後も子供に会う権利は保障されており、子供を連れて許可なく帰国することは許されない。ハーグ条約と呼ばれるものの一つに、「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」というものがあり、この中でこのことが定められているためだ。欧米諸国、南米諸国など多くの国が批准している条約を、なぜか日本は批准していない。

 古い日本の習慣では、そうなのかもしれない。実際、離婚した両親が継続的に子供と接することは大変に難しいという話をよく聞く。だから、日本人同士でも親権の問題が生じる。われわれのような国際結婚をしている日本滞在外国人であれば、なおさらである。相手は「定期的に子供を会わせる」という約束を守る親だったらいいけれど、残念ながら現実には、そうではないケースが多いようだ。子供を復讐の道具として使う、つまり相手を苦しませるために子供と会わせないようにするということも少なくない。

 離婚だけが原因ではない。例えば、こんなケースもある。さるアメリカ人のビジネスマンと日本人の女性は、実に仲のいい夫婦だった。ところが、若い日本人の妻が病気で亡くなってしまった。すると、死亡した妻の親が勝手に娘を連れ去り、このアメリカ人は愛する妻だけでなく、愛する娘までも一挙に失うことになってしまったのだ。私の知り合いであるアメリカ人女性も、この国の特殊な制度の犠牲者だ。夫は日本人のビジネスマン。その彼は数十年もの間、妻に暴力を加え続けた。それに耐えられなくなり、ようやく逃げたのだが、そのために彼女はこの2年間、3人の子供と直接会うことができなくなってしまったのだ。

 そのようなことが起きないよう、親が愛するわが子に接することができる権利は、世界共通のルールとしてほぼすべての先進国で認められている。それなのに、なぜ日本はその仲間に入らないのか。その疑問を外務省にぶつけてみたら、こんな答えが返ってきた。「元々、ほとんどの国際結婚は日本人の女性と外国の男性との間のもの。虐待された邦人を守るためには、この状態の方がいいのです」。

 身勝手な論理だと思う。この主張を聞く限りでは、とても先進国の仲間だとはいえない。これだけの経済成長を遂げ、新興国などからは「自分たちの先生」として尊敬の目で見られる国になったのにと、とても残念に思う。

 先日、クリスとはまったく逆の話を聞いた。外国人の男性が突然、日本の妻との間にできた子供を連れて帰国してしまったというのである。それを知ったアメリカ人の知人は、こう言ったものである。「人は、加害者である間は被害者の気持ちは分からないものだ。自分たちが辛い経験の犠牲者にならない限り、日本の社会は何も変わらないよ」。

 それは一つの見方であるけれど、そうなる前に手段を講じるということもまた、人の知恵である。聡明なる日本の人たちがこの問題に関心をもち、声を上げ、国を動かして、早期にハーグ条約を批准することを願ってやまない。