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 新商品や新事業の開発について、アタシの会社は定期的にテーマの選定や見直しをするのがキマリになっています。が、誰とは言いませんヨ、誰とは言いませんが、決まって反対する役員がいるから、困ったもんですナ。この間の役員会でもこんなことが…。

 「それで、その開発、ダメだったらどうするんだ。誰が責任を取るんだ? リスクの度合いも分からんようじゃ、危なくてしょうがない。そんな開発やるもんじゃあない! 開発は100%成功するのが見えてからやるもんだ」。

 どうですか、皆さん、それはないでしょう。第一、開発てェもんに、リスクがゼロなんてあリャアしませんヤネ。ダメと分かったら、次の手を打つ。それを考えて欲しいてェもんですよ。それなのに、ただダメばかり。いつも、この役員のダメ出しで、議論は振り出しになってしまうのです。たまには前向きになってみろてェもんです。バチが当たるわけじゃァあるまいし。

 「まるで、ブレーキしかない自動車じゃァねェか」。開発部長がいいことを言います。部長も、この役員とは何回もぶつかってるんで、ここぞとばかり、「第一、100%成功する開発があるんなら、教えてもらおうじゃねェか、だろうよ、次郎さん。てやんでェ、ブレーキばっかり踏みやがって、あの役員のクルマ、ハンドルやアクセルはないんじゃねェか?」。

 クルマの例え、分かりやすいですナ。確かに、開発や事業を遂行することは、自動車が動き回ることと似ています。障害があったら回避するし、加速する時はアクセル。危ない時はブレーキを踏んで減速する。要は、新商品や新事業をつくるという目的地に行くためにハンドルやアクセル、ブレーキを駆使するのが開発です。それなのに、くだんの役員はブレーキばかり。ジッとしたままスタートができないなんて、いっそ、サイドブレーキだけにしますかナ。

 部長と話すうち、「次郎さんよ、あの役員も若いころはこんなじゃなかったよナァ。前向きだったし、一体、いつからこうなっちまったんだろう」。そうなんです、昔からこうじゃあなかったのに…。「そうだ、管理部長になったころからじゃァねェか?」。部長に言われて思い出しました。自動化が進み、大量生産でものづくりをするようになったころからでしょうか、ブレーキを踏む回数が増えたのは。「そりゃそうだ。自動化すると、不良が出ると出っ放し。慎重になるっきゃないし、その経験を、そのまま引きずっているのかもしれねェ」。部長の分析、バッチリです。無人になる夜間、いったん不良が出れば、朝には不良品の山が待っている。くだんの役員は何回となく、そんな経験をしていたのです。

 「でもよ、もう大量生産なんかしてないし、少ロットで回しているんだから、いいじゃァねェか。もう、ブレーキなんて要らねェよ。なあ、次郎さん」。確かに、ブレーキ踏むのも大切な仕事。でも、今はスピードが大切。しかも、経営環境がクルクル変わるんですから、ハンドルさばきも大切てェことですナ。

 さて、さて、本日の結論は出たようで、イザ、イザ、いつもの赤提灯。
 
 おっと、気が付いたらお局も。どうやら、言いたいことがあるらしく、今日は気合が入っています。「聞いてましたヨ、さっきの話。きっと、あの役員も辛いのよネ。ずっと、ブレーキしか踏んでないんだから、急にアクセルや、ましてやハンドル操作をしろって言われても、できないのヨ。染み付いちゃったのね、ブレーキ役が」。なるほどねェ。「弁護じゃないの、多いのよ、そんな人。これからはアクセルやハンドルさばきが勝負だって、アタマじゃ分かっていても、できない人が増えているのよネ」。う~ん、そう言えば、そんなシト、思い当たりますヨ。

 飲むほどに酔うほどに、アタシたち、根っこは開発マン。どうしたら、役員のクルマにハンドルとアクセルを付けられるか、という話になりました。「こりゃあ、ネコの首に鈴を付けるより難しいゼ」。部長はあきらめたようですが、お局の目がキラっと光りました。

 「で、どうすリャいいんだい?」。お局、待ってましたとばかり、「開発部長にするのヨ。開発の切り込み隊長にすればいいのよォ。そうすれば、逃げることもできないし、何より、やるっきゃないじゃない!」。「おいおい、じゃあ、俺はどうなるんだい」。やれやれ、開発部長の酔いもさめちまったようですナ。

 お局、本物のお局になりつつあるようで…。