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 株主への利益還元を増強できる経営者が優秀であるとされると、経営者はそのために何でもする。米国では、配当のためにリストラをする、ということも平然と行われるようになった。アメリカン航空では、破綻を防ぐために客室乗務員が340億円の報酬削減に賛同した後、経営陣は200億円を超える株式ボーナスを受け取ったという。客室乗務員労働組合代表が経営者の行為を貪欲であると批判したとき、会社は「わが社の経営報酬は航空会社を含む他のアメリカ企業と同様に市場に基づいている…株主と経営者の長期的な利害関係を合わせるように設計された」と答えたという(出所:Dow Jones News Service, “American Air Flight Attendants Want Execs To Defer Bonuses”, 1 Apr 2008.2008/10/1)。貪欲な経営者はますます正当化される時代になりつつある。

 
 
 

会社法施行で株主の権限はなんでもありに

 さらに追い打ちをかけるのが2006年施行の「会社法」だ。同法においては、株主の権限は極大化されており、少数株主の排除すら可能となっている。たとえば、「全部取得条項付種類株式」(171条1項=株主総会の特別決議により、会社がそのすべてを取得することができる種類株式のこと)を使えば、気にくわない少数株主を完全に締め出すことも、法技術的には可能となっているのだ。旧法と違い、手切れ金を支払うことによって少数株主から株式を取り上げることが可能になったからである。会社法は、強者と弱者の格差を固定し、さらに広げていくという構造的欠陥を抱えていることが頻繁に指摘されている。

会社の規模に応じた規制が必要

 今や会社の利益といえば機関投資家や大株主の権利ばかりで、少数株主や従業員への配分は忘れ去られている(ないし犠牲にされている)状況といえる。

 ステークホルダーの中での分配が公平・公正に成り立つ立派な公開会社は、(1)そうした理想型(主要株主や経営者が優先的に利益をとるのではなく従業員などにも十分配分して残りを分配する)を追求していただくために公開会社法に従っていただく、(2)そうでない会社はそれなりの法律ルール(法律で何でもがんじがらめにするという意味ではなく、中小会社はより自由度を増していきいきと活動する)に従っていただく、という二段階の規制を行うことは従来から存在する手法(たとえば「証券取引法」と「商法」の関係など)であり、私はそれを理想としている。

 個人的な見解を付け加えさせていただくと、公開会社法は決して無理難題を言う法律ではなく、今の水準でも十分に機能していることを前提に、少しの整備(機関投資家の過保護や経営者のやり過ぎの制限)で間に合うように思う。何かとまじめに取り組み過ぎる日本の実務界に、あまり負担をかけすぎる規制には反対である。

藤末 健三(ふじすえ けんぞう)
早稲田大学客員教授 参議院議員
1964年熊本県生まれ。86年東京工業大学卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に行政官として入省。95年マサチューセッツ工科大学経営学大学院に留学、96年には同大学院とハーバード大学行政政治学大学院で修士号を取得。99年東京工業大学で学術博士号(Ph.D)を取得し通商産業省を退く。同年東京大学大学院工学系研究科専任講師に就任、2000年から同総合研究機構助教授。04年民主党参議院選挙に比例区で当選する。早稲田大学客員教授。公式ブログはhttp://www.fujisue.net