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図4

 奈良時代には写経をおこなっていた「経師(きょうじ)」が、それを巻物に仕立てるところまで手掛けるようになり、やがて掛軸も扱うようになった。鎌倉時代になると現代の表具師のルーツとも言える掛軸専門の裱褙 師(ひょうほえし)が現れ、巻物を仕立てる者は「経師」、掛軸を仕立てる者は「表具師(ひょうぐし)」と分けて呼ばれるようになる。その後、両者の仕事上の区別はなくなっていくが、江戸時代の名残からか、関東では今もこの種の仕事を手がける職人は「経師」と自称する場合が多い。一方、京都や大阪では表具師の呼称が一般的である。

 こうした人たちによって作られ続けてきた掛軸は、紙などに書かれた書や絵画をコンパクトな収納しやすい形にまとめつつ、それを長い年月にわたって保存していくという重要な役割を担っていた。この機能が、日本人が書や絵画と向き合う、一つの様式に収斂していったのだ。

図5

 たとえば、伝統的な和室には床の間があり、そこに絵や書を飾る。けれども、それ以外の調度はきわめて少ない。壁にたくさんの絵や書を飾る習慣もない。つまり、空間的にみればたった1枚の絵や書があるに過ぎないのだが、それを時節に応じてどんどん切り替えていくのである。

 そのありようは、西洋のそれとは対照的なものともいえるだろう。映画の「ハリー・ポッター」シリーズなどをみるとよくわかるように、欧州の古い建築物や宮殿などの内壁には、ぎっしりと絵画が飾られている場合が多い。例えば、100枚の絵をすべて壁に飾ってしまうのが欧州的なやり方で、逆に100枚の絵をすべてバックヤードに隠してしまい、その中から選りすぐった1本だけを取り出して決まった場所にごく短期間だけ飾るのが日本的、と対比できるかもしれない。

図6

 そうだとすれば、西洋と日本では、絵画に求められる機能がまったく異なってくることになる。長期間の展示を前提とする西洋では、絵や額にもそれに適う耐候性や耐久力が求められることになるだろう。けれどもそれを前提としない日本の掛軸にまず求められるのは、コンパクトに保存できることになるはずだ。

 もちろん、その機能を備えていればそれだけでいい、というわけではない。本紙、すなわち中心部の絵や書の部分が重要なのはもちろんだが、その周囲も同じくらい重要になる。掛軸を掛けた状態での面積でいえば、本紙よりむしろその周囲の部分の方が大きかったりするからである。この、本紙以外の表具の部分が鑑賞上、極めて重要な役割を担ってしまうのは当然のことだろう。