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図16

「まあ、ええ時代やったと思います。それがどんどん減っていって、バブルの時期にはちょっとよかったようですけど、それが終わればまた減って、いまは自分が修業していた30年前の1/3ほどやないでしょうか」

 そう嘆くのは、京表具師の北岡英芳である。

 実際、昭和40年代の600件が平成9(1997)年には約260軒となり、さらにこの10年も減少傾向は止まらず、平成21(2009)年現在では200軒ほどになっている。

 「店の数も減ったし、規模も小そうなりました。昔は大勢の弟子さんを抱えていたところも数人だけになってしもうて。親方一人だけでやってる店もありますし」

 表具師には、生きにくい時代になった。

図17

 けれども、その仕事がまったく求められなくなったわけではない。新作を掛軸に仕立てる作家はまだ多くいるし、茶道などでは掛軸はいまだに必需品である。さらには多くの古書画が掛軸のかたちで残されており、それは商品として盛んに売買されている。当然、修理や改装(表具の仕立て替え)の需要がある。いまだ表具師の仕事は、現代の経済活動における一分野として機能しているのである。もちろん北岡も、その担い手の一人だ。

 彼の本拠である「北岡技芳堂」は、京都市左京区、新緑の季節には葵祭の華やかな王朝絵巻が繰り広げられる下鴨神社のほど近く、閑静な住宅地の一角にある。当主の北岡は58歳。中京区の京表具師のもとで修業を重ね、独立して30年になる。70歳代が現役で活躍するこの世界では、ようやくベテランの域に差し掛かったところになるのかもしれない。

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 京都では一口に表具師と言っても、店によって顧客や取引先が異なり、扱う作品や仕事の内容などもさまざまである。代々、寺や神社との取引をしてきた店、奥村家のように茶道家元から用命を承る累代の家、美術館や博物館から所蔵品の表装や修復を依頼される工房などなど。こうした専門分化によって層の厚さを感じさせるのは、京都ならではのことといえる。

 こうしたなかにあって、北岡技芳堂は開業当初から美術商との取引を中心としてきた。京都の古門前や新門前に店を構える書画商や画廊が主な顧客で、そこに国内外のコレクター、美術研究者などの注文が加わる。顧客の多くは「業者」だから、それなりの仕事量は確保できる。だが、それだけに要求は厳しい。見方によっては、もっとも難しい仕事を請け負っているともいえる。