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 中小企業の開発費を助成する補助金の審査員、何でアタシがと思ったんですが、お役所のご担当から直接のご指名だそうで、会社を通じて引き受けることになりました。えっ、ヒマだから? ヤレヤレ、お局みたいなこと言いなさんナヨ。それで、何事も経験てェ事なんですが、チョットひど過ぎますゼェ、先生方…。

 初めての審査委員、委員の構成は全7人。そのうち、5人はガクシキケイケンシャと呼ばれるシト達で、あとは政府系の銀行マンとアタシ。でも、よく名付けたもんですナ、学識経験者てェのは。その名の通り、学識があってその経験が豊富。名刺交換したら、全員が○○大学名誉教授。あとで知ったのですが、名誉教授てェのは、退官(定年退職)した後に付く肩書きで、正式な役職ではないそうですナ。まあ、それはいいとして、この先生方、権威の塊のようなシト達なんですヨ。

 アタシの名刺を見るや、「ああ、あのメーカーの人ね。経営企画室? オタクは技術屋?」。そりゃァ、言い方が無礼ですよ。それも見下したような目でネ。初対面ですから、ちっとは腰を低くしようてェ気持も吹っ飛ぶようなゾンザイぶり。多分、大学教授時代には恐いものなしで、目一杯ふんぞり返って歩いていたんでしょうナ。「てやんでェ、こちとらァ開発一筋30年、筋金入りだィ! 大体、挨拶ひとつロクにできないくせに、何が名誉教授だァ!」を飲み込んで、ニコニコするしかありません。

 さて、審査が始まります。申請者がプレゼン資料の説明です。そりゃァ、補助金をもらおうとするシトたちですから、これ以上ていねいにはできないくらいていねいに説明するのは当り前、ですが、その後の質疑応答、これがひどいんですよ。ネ、先生方。

 「資料の、○○ページ、○○行目の左から○○番目の"ハ"、これ"ヲ"じゃない?」。何と、テニヲハに文句をつけ始めたのです。「大体、こんな文章じゃ、論文なら突っ返されますよ!」ですと。オイオイ、論文じゃなくて、これは企画書ですよ。それも補助金申請のための。書いてある中身、それが重要で、中学校の作文の授業じゃないんだから…。

 そうかと思えば、「この数字、いつの数字? 私の現役時代にはこんな数字はムリでしたが…」。もう信じられませんヨ。「当り前だろう、技術が進んだので可能になった数字。それにケチつけて、ええ先生、一体、何になるんだィ」。飲み込むのも大変ですヨ、もう、バカバカしくってやってられネェ!

 そうこうしているうちに,休憩時間に。その間の先生方、これもひどいもんですナ。「あの会社の研究開発、地元の○○大学の○○教授の指導らしいが、彼、生意気なんだよね。だから、今回はパスですね」。オイオイ、それって偏見を通り越して意趣返してェもんですよ。ほかの先生も、「そうそう、○○教授でしょう? 近ごろ、有名になって有頂天になってるんじゃないですか」、なんて言い出す始末。

 極めつけは、「最近、年を取って目が悪くなって、字がよく見えないんですよ、ははは…」ですと。もう、笑ってる場合じゃないでしょ。辞めなさいよ! 見えないんじゃ。

 それにしても、こんな先生方が補助金の行方を決めるなんて、お役所も、一体、どういう了見なんでしょうか。しようがないから、口直しです。

 一人で飲んでいると、お局が肩をたたきます。アスパラを連れて、ノミュニケーションだとか。「次郎さん、どうしたの? 機嫌が悪そうよ」。思い出すのもシャクですが、まあ、たまにはお局に愚痴を聞いてもらうことにいたしやしょう。

 聞いたお局曰く、「次郎さん、それはね、お役所が次郎さんに決めてもらいたいから指名したのヨ。そうに決まってる」。「あのね、アタシ以前お役所でアルバイトしたことがあるの。それも、補助金に関係していた部署でネ」。「だから、よ~く分かるのよね、お役所が次郎さんに期待しているのが」。「だから、次郎さんがいいと思う案件を推薦して、それが通るようにすればいいのよォ」。

 確かに、アタシが指名してもらったわけはそこにあるかもしれませんナ。学識経験者が多い中で、何をアタシに言わせたいのか、だんだん分かってきましたヨ。「次郎さん、お役所はね、ちゃんと出したいところは決めているのに、自分たちだけで決めたら大変でしょ。だから、学識経験者という権威に言わせたいのよ。でも、その先生方がモウロクしてるんだから、ちゃんとした人に、バッチリと決めてもらいたいのよォ。モウロクも、そのためかもね」。

 モウロクなんて、深読みすぎるかもしれませんが、ナルホド、確かにご担当との事前打ち合わせでは、そんなニオイもしましたが…。

 2週間後の審査会。お局の助言、ドンピシャです。誘導といいましょうか、腰を低くして、先生方の意見をそれとなくアタシの考える方向へ引っ張りました。

 「いやいや、佐々木さん、お見それしましたよ。あなたの言う通り、確かに、文章に多少の問題はあるものの、開発の方向はいいですね。それに、あの○○教授も頑張っているようですから…」。

 ヤレヤレ、結果オーライでしたが、おじいちゃんのお守りも大変ですヨ。
 
 さてさて、お礼も兼ねてチョット一杯。お局のご機嫌はバッチリです。「ね、言った通りだったでしょ。しょせん、この世は産・官・学、お役所もちゃんと落としどころは考えているのよ。要はバランスなのよ。次郎さんも、いい勉強になったでしょ。ちゃ~んと、アタシに感謝しなくちゃネ」。「モウロクしてボケないように、産業界の代表として、頑張ってね!」。

 あぁ、お局、分かってるサ。でも、そこまで言わなきゃ、いいオンナなのに…。ね。