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 「おいおい、次郎さんよ、この会社にも派閥があるらしいゼェ」。うちの会社、どうやら派閥ができつつあるようナ。一体、会社に派閥は必要なんでしょうか。困ったもんですナ。今まで、部長が知らないんですから、アタシも初耳です。どうも、会社が大きくなるにつれ、大卒、しかも有名大学から採るようになってから、その出身大学ごとの派閥が形成されつつあるようなんです。

 派閥、あらためてその意味を辞書で調べてみましたヨ。そうしたら、どうも、あまりいい意味ではないようです。「ある集団の内部で、出身や政党政派や特殊な利益などを中心に結びついた仲間」。政党政派は分かりますが、特殊な利益、これはちっといただけませんワナ。第一、会社の中で特殊な利益を受ける仲間、あってはいけませんヤネ。

 「で、何か問題が起こったてェのかい?」。アタシの質問に、「次郎さん、ここだけの話。言いにくいんだが、例の専務、どうやら自分と同じ大学出身の若手をヒイキにしているらしいんだ」。そういえば、その専務は有名大学出身者のハシリでもあるのですが、今まで、そんなことァ感じませんでしたヨ。「大学の後輩だからといって、人前でこれ見よがしに若手を褒めたり、最近、同窓としか飲みに行かないんだとか。こりゃあ深刻だゼェ」と、部長も心配しています。

 まあ、同窓生なんですから、ある種の同族意識はあるにせよ、同じ会社の中ですから、それだけでかたまったらいけませんヤネ。それこそ、特殊な利益を受ける仲間になってしまいます。「何が目当てなんだろう?」。そうですよ、何が目当て、目的なんでしょうか。「同窓で集まって、同窓だけで飲みに行ってヒソヒソ話。ええっ、何か魂胆があるてェことじゃねえか!」。まあ、そんな魂胆、企みなんてェことはないとは思いますが、やはり気になりますワナ。

 よく考えると、この派閥てェもんは、案外、厄介です。第一、派閥を形成するには、何か目的があるんでしょうが、ここが問題ですヨ。逆に言えば、群れなくてはいけないのはなぜか、そこに何かがあるてェことですよ。

 何か具合の悪いことがあって、それを集団の力で隠そう、あるいは正当化しよう、なんてェこともあるでしょうし、自分のチカラを誇示するときにもよく使う手です。いずれにしても、集団の力に頼ること、それ自体にヨコシマなキモチが見え隠れしませんかねェ。

 「そう言えば、今だから言えることなんだが、次郎さん、以前、ちょっとした不祥事があったのを覚えているだろう。そうそう、例の不具合さ。商品に欠陥があるのが分かって大騒ぎになりそうだった、あの事件。あれ、もみ消したのは専務だったよな。直接の担当者が後輩だったてェことサ」。そうなんです、あの事件、派閥の力学で始末したような感じです。

 やはり、派閥が台頭するようじゃァいけませんヤネ。ここは、派閥に属さない、いや、有名大学に縁のないアタシたちの出番かもしれません。早速、いつもの赤提灯。作戦会議と行きやしょう。

 派閥を解消するにはどうするか、相手は多勢、こちらは無勢。相手方の数には勝てません。「うちの会社の無派閥、つまり、有名大学出身じゃないシト、一体、どのくらいの比率かなあ」。そうだ、彼女なら知ってるかも。社内情報の生き字引、お局の登場です。

 「なによォ、忙しいのに呼び出すなんて。今日は高く付くわよ」。「まあまあ、そう言わさんな。で、聞きたいのはうちの会社の…」。「ふ~ん、そうなの。うちも、派閥ができるくらい大きくなったのね。確かに、派閥ができていいことなんかあるわけないじゃない。心配ね」。さすがにお局、数字も強い。聞けば、過半数は有名大学じゃないそうな。

 聞いた部長がうなずきながら、「そうか、そりゃあ勝ち目があるゼ。あっちの数よりこっちの数が多いなら、大丈夫。俺たち、しっかり組んで頑張ろう!」。なにやら決起集会みたいになりましたヨ。最初は、派閥はない方がいいに決まっている、その話だったんですが、飲むほどに酔うほどに,だんだん対抗するにはどうするか、作戦会議の様相に。

 ところで、血気盛んなおじさん二人が盛り上がっているのを横目に、なにやらお局はご機嫌斜めです。「おいおい、どうしたのサ。何が面白くないんだィ?それとも何か心配事でも…」。お局の仏頂面、あまり見たくはありません。

 しばらく口をつぐんでいたお局が、おもむろに、アタシたちを横目で睨んで、おちょこをグッと空けて、一言。「いい、二人とも、よ~く聞いて。何よ、いい年こいてグダグダと。結局、アンタたちの言ってることは、派閥を作ろうって話じゃない。あっちの数よりこっちの数ゥ? 冗談じゃないわよ! 派閥をどうしたらなくそうか、それなら分かるけど、対抗するには数頼み? だからオトコはバカなのよ! アタシ帰る!」。

 いやあ、効きましたヨ、お局の喝。残された二人、身にしみました。本当に、オトコてェのはバカですナァ。トホホ…。