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 経営会議でケチョンケチョンでした。聞いてくださいよ、アタシの提案、いいアイデアだと思うんですがネ。だって、最近、出す商品が不調なんですナ。仕方ありませんヤネ、お決まりのコストの話、どれもこれも高いって言われるんですよ。でも、変じゃありませんか、性能は二の次で、コストだけを比較されるなんて…。

 だから、経営会議に提案したんですヨ。「商品を売ろうとするから、高いか安いか、それだけ言われるので、いっそ売らないようにした方がいいと思うのです」。そう言った途端、例の専務をはじめ、居並ぶ役員から、そりゃァもう絨毯(じゅうたん)爆撃のような反論です。

 「バカなことを言うんじゃあないよ。メーカーが商品を売らないで、一体、何を売るんだ。バカも休み休み言え!」。「売れない商品ばかり造って、ええっ、挙句に売らないだとォ! じゃあ売り上げはどうするんだ?」。もう、これ以上の罵声(ばせい)はないというくらいの罵詈雑言(ばりぞうごん)、アタシに向けられた一生分の非難轟々(ごうごう)でしたヨ。

 しかし、よく見るてェと、世の中には売らない商品が結構あるんですヨ。例えば、レンタカー。そう、あの貸し出すクルマです。レンタカーてェのは売らずに貸すんですナ。お客さんはクルマを借りて乗る。半日か1日、あるいは1年以上、ずうっと借りてる人も居るそうな。レンタカーてェのは売らないじゃありませんか。それでも、大きな商売になっているそうじゃありませんか。

 このレンタカービジネス、面白いことに、クルマ自体に少しくらいの傷、そう、チョイキズがあったとしても、お客さんは何も言わないし、とにかく走ればいい。最新式でなくても、とにかく目的地まで走ってくれればいい。それで満足なんですナ。お客さんの要求は、とにかくちゃんと走ればいい。その性能がしっかりしていれば、ちゃんとお金を払うじゃありませんか。アタシ、レンタカーを値切って乗っている人、見たことありません。
要は、売らない商品は、あるてェことです。

 「役員会であれだけ言われリャ、逆に、スカッとしただろう、次郎さん。ここはゲン直し、一杯行こうじゃないか」。部長のお誘いです。

 「でもよ、次郎さんの言う通り、よく考えリャいいのに、売らない商品てェのは結構あるよナァ。クルマ以外にも事務用品やコンピュータ、周りを見れば、借りてる物の方が多いかも。そうそう、貸衣装なんてェのもあるじゃないか」。そうなんです、貸している商品、意外に多く、しかも、比較的コスト競争にはならないのが特徴です。お客さんの要望に合致すれば、それで満足。まさに、性能がしっかりしていれば、それに見合うコストを払っていただける。これこそ、ビジネスの本質てェことじゃありませんかねェ。

 飲むほどに酔うほどに、戦略会議の様相に。考えれば考えるほど、この、売らないという戦略、やはり、やろうということになりました。「さて、どうやって、あの分からず屋の専務に分からせるか、それが問題サ。どうしよう」。「とにかく、彼が納得すればやりやすいヤネ、そこが問題サ」。戦略を練る二人の前に、「それが問題、そこが問題、言うは易しで、それこそが問題ネ」と、いつの間にか、お局の登場です。「オイオイ、からかうんじゃないよ。困ってるんだ、分かるだろう専務の性分」。

 「そうよ、でもね、専務は数字が見えれば分かるのよ。単純なんだから、儲かる数字が見えれば、それでOKヨ」。「確か、レンタカーって、廃車になるまでに販売価格の数倍稼ぐって聞いたことがあるの。調べてみましょうよ」。さすがお局、グットアイデア! 早速調べることに…。

 数日後。「ねえねえ、次郎さん、ビックリよ! アスパラに調べさせたんだけど、何と、最低でも4倍稼ぐの、4倍よ! 新車を売るより、レンタルで稼ぐ方が儲かる。やはり、売らない方が儲かるのよ」。これでキマリ、専務も納得するに決まってます。

 「分かった、キミの言うことは分かった。商品は、売るだけじゃあないことは、よく分かった。だがね、売れる商品も開発してくれないと困るよ。レンタルばかりじゃ、新商品開発がおろそかになるんじゃないかい? しっかりやってくれたまえ」。

 ヤレヤレ、何とか分かってもらいましたヨ。と、部屋を出ようとしたその時です、専務のつぶやきが強烈です。「…社員もレンタルできるといいのになァ…」。あ~あ、そりゃあこっちのセリフだァ!