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 何やら、お局がアスパラにお説教です。「えっらそうにィ、アンタ、何を言ってんのよォ!せっかく頑張って開発してくれたのに、文句ばっかり言って、アンタ、何様?」。朝からご立腹、よほど何かあったのでしょうナ。

 「どうしたんだい、アスパラが何かヘマでもしたのかい?」。「次郎さん、聞いてよ。アスパラがね、うちのシステム構築をお願いしたあの会社の担当者に、本当に失礼ヨ、そう、生意気な口をきいたのよ。システムのこと詳しくないクセに、偉そうに、買う側の立場を利用して威張るのよ。アタシ、そんなの大っ嫌い!」。

 そりゃァいけませんヤネ、買う側だからといって、売り手に対して偉そうにするなんざァ、立場の悪用、相手にとってはご無理ご無体てェもんですヨ。第一、紳士的ではありません。「立場が逆なら、アスパラだってイヤなはず。誰だってそんなことされたら、相手のことを信用しないし、もう頑張ろうなんて思わなくなっちゃうでしょう、次郎さん」。

 売り手の弱い立場を見透かして、買い手が強く出る。まァ、それは人間の本能みたいなものかもしれませんが、ほめられるもんじゃありませんヤネ。ここは、アスパラも大いに反省しなくちゃいけません。

 今度の一件、お局の気持も分かるんです。システムを更新することになり、あちこちから見積もりを取ったようで、その中から、一番コストパフォーマンスに優れた会社に依頼したんですナ。そして、その担当者の踏ん張りで、当社にとっては十二分とも言えるシステムが出来上がった。なのにアスパラ、感謝するのとは逆に、偉そうにケチを付けたてェことですからいけません。品が悪いを通り越して、卑劣と言われても仕方ありませんヤネ。よく考えると、この話、案外、重大な問題が見え隠れしているようですヨ。

 高度経済成長期に伸びた我が国の経済が、中国をはじめとする新興国に追い越され、厳しいコスト競争にさらされる中で、いわゆる下請け企業に対してのコスト削減の圧力が当たり前のようになっちまったのは分かります。しかし、そこまでは分かるにしても、今の時代、買い手の、売り手側に対する態度は、目に余るてェか理不尽というか、何か、一線を越えてしまったのじゃァないですかねェ。

 この、一線を越えたこと、そこが問題なんですヨ。いくら下請けでも、その部品なり製品なりがあればこそ、買い手側のメーカーの商品が出来上がる。そこに、相身互い(あいみたがい)的な相互信頼関係があったのに、それがなくなったような気がしますナ。もっといえば、本来、それがないなら、やってられねェってことですよ。

 確かに、買い手はなるべく安く買いたいのは分かりますヨ。でも、売り手が一生懸命に造ってくれたモノ、せめて、そのことに感謝しないようじゃあ、お互いの信頼関係なんざァ、なくなっちまいますワナ。ただただ、安いものづくりを追っかけて、挙句の果てに、やれ中国だ、やれ韓国だ、それじゃあ、あんまりじゃありませんかねェ。

 ご立腹のお局を誘って、さあさあ、いつもの赤提灯。部長も交えて、この、“アイミタガイ”について議論することにいたしやしょう。

 「だってアタシ、何が腹が立つってアスパラ、人が変わったように偉そうにしたのヨ。買い手として、確かに優越感はあるかもしれないけど、これ見よがしに偉そうにするなんて、軽蔑ネ。しかも、自分のお金で買うわけじゃァあるまいし」。

 「そうだよな、そう言えば、うちの購買も業者が来るてェと、急に偉そうにしやがる。全部が全部そうじゃあないけど、何であんなに偉そうにする必要があるんだろう。一種の特権かァ?」。

 特権? 変な言い方ですが、そうかもしれませんナ。普段、他人に対して偉そうにすることなんてないのでしょうが、仕事としてお金を使い、協力企業から買う立場に立った途端、急に偉くなったような気がする、それは、特権を持った気になる、そういうことかもしれません。

 買い手市場とか売り手市場、そんな話も聞きますが、買い手が有利な時には偉そうにして、その逆のときにはへコヘコするなんざァ、大人気ないを通り越して、幼稚な話です。コストに敏感になってしまったのは仕方ないにせよ、何かをしてくれた、それも一生懸命にしてくれたことに対して、感謝する気持を忘れるようじゃァいけませんヤネ。アタシたち、そこのところをもう一度考えようじゃありませんかねェ。

 飲むほどに酔うほどに、そろそろお局もお帰りです。「さあ、アタシ、一足先に帰るわヨ、おごちそうさま。そうそう、お勘定よろしくネ。いつも本当にありがとう。感謝、そうよ、いつも感謝してるのよ、次郎さん、じゃァね」。

 う~ん、そう来たか。感謝して、勘定、アタシ持ちてェことか。ま、偉そうにされるよりいいかもしれませんナ。残ったアタシたち、仕上げに焼酎でもいただきましょう。「さあ、部長もう一杯行こうゼェ…」。そしたら部長、ニヤリと笑いながら言いました。「次郎さんよ、俺も感謝、いつも感謝してっからなァ」…ですと。あ~あ。