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「資源本位制」への回帰

 通貨が不安定になると、必然的にモノが重視される傾向が強まっていきます。この場合の「モノ」というのは「資源」です。資源は価格の変動こそあるものの、株券や債券とは異なり、少なくとも価値がゼロになることはありません。通貨に対する信用が低下したり、世界が不安定さを増したりするほど、よりどころを「実物」に求める傾向は一層強くなります。1971年に「ニクソン・ショック」が起こる以前は「金本位制」、つまり世界の通貨が「金」という資源だったことを思い出してみてください。これは、わずか40年前の出来事であり、もともと世界は「資源」を軸に動いていたのです。

 中国、そしてインドの本格的な経済成長をきっかけに、資源需要が実需としても飛躍的に伸びるのは確実です。世界的に「サスティナビリティ(持続可能性)」に注目が集まる中で、資源の有限性に対して目が向けられていきます。米国の凋落、そして、米ドルという絶対的に安定していた通貨の価値が揺らぐことで、これから「限られた資源こそ最も価値がある」という、「資源本位制」ともいうべき考え方が支配的になるでしょう。

 20世紀に世の中を動かしていたのは、内燃機関としての「エンジン」です。主要な原料は鉄であり、自動車や飛行機、船などを動かすエネルギーとして石油を必要としました。そのため、20世紀は石油争奪戦の歴史でもありました。1971年に米国が米ドルと金との交換を停止したのに続いて、1973年に米ドルを切り下げた直後に石油ショックが起こった、という例があります。これは、米ドルの信用力が低下したことで、最も確実な資源である「石油」にマネーが集中し、産油国が立場を強めたという背景があります。

 21世紀の世の中を動かしているのは、力学的にはモーターであり、世の中を動かす「エンジン」としての機能は、マイクロプロセサを搭載したコンピュータや電子部品へと移り変わりつつあります。テクノロジーの進歩とともに、工場の動力は蒸気機関から電力を使った「モーター」へと変わりました。家庭の中でも石油ランプが電灯へと変わり、ほうきは掃除機に、洗濯板は洗濯機へと、あらゆる道具が「電化」されていきました。時代の中心はメカニクス(機械)からエレクトロニクス(電気・電子・ソフト)へと移行し、エネルギーの主役は石油から電気へ、資源の主役は鉄からレアメタルへと変わってきています。

 前回解説したように、レアメタルは石油よりもさらに極端に偏在し、資源量も限られています。21世紀社会では、レアメタルをめぐって熾烈な争奪戦が展開されるのは間違いなく、それはすでにSi(シリコン)やLi(リチウム)などで始まっています。

囲い込みとブロック化が加速する

 「資源ナショナリズム(=囲い込み)」とともに資金が資源へと流れ込み、将来的には主要資源の価格は高騰する可能性が高いと考えられるでしょう。増え続ける人口と経済発展の中で、各国の最重要テーマは「将来にわたって食料や資源、エネルギーをどのように安定確保するか」に移っていきます。これからは、世界の人々が求める需要をすべては満たしきれない時代になります。「資源には限りがある」という現実に直面し、いくらお金を積んでも手に入らないという状況も十分想定できます。

 資源の囲い込みという点で、世界のブロック化、つまり「仲間(友好国)内だけで足りないものを都合しあう」といった動きが強まっていきます。資源が豊富に残されている地域は世界でもごく限られていますが、現在フロンティアとして世界中から注目されているのは「中央アジア」です。各国がこれらの地域を囲い込み、少しでも多くの権益を確保しようと動くのは避けられないでしょう。

 資源確保は民間企業の力だけでは限界があり、外交交渉や政策面でのバックアップなど、政府の協力を得ながら進めていく場面がこれから増えていきます。実際にロシアや中国などでは、国有企業が中心となって資源確保に動いています。政府そのものが動いている国も少なくありません。国益がかかっているだけに、国内企業を優遇する動きは強まり、外資企業の不平等な扱いは正当化されていくようになるでしょう。

 限りある資源をめぐって、世界は新たな不安定要因を抱えることになります。特に日本と中国との関係は、今後さらに複雑になっていくでしょう。中国では、あと20年近く人口増加と経済成長が続くと考えられ、そのためには、より多くの資源やエネルギーが必要になります。これから日本と中国との間では、資源確保をめぐって対立する場面が増えていく可能性があります。しかし、日本が軍事的に単独で国を守ることは難しいでしょう。将来的に米国がリーダー国の一つに過ぎなくなっても、経済的にも軍事的にも日本は米国との共存共栄を続けていく、という道をとる可能性が高いと考えられます。