PR

 「冗談じゃァねェ、ええっ、次郎さんよ。一体、この会社、子会社をどう思ってるんだィ!」。開発部長、何やら、えらい剣幕ですヨ。よほど、ひどい話なんでしょうナ。「大体、生みの親なら、子をかわいがる、育てようってェのが普通じゃねェか。それを、足を引っ張るような、そんなべらぼうな話、聞いたことァないゼェ!」。どうやら、子会社にとっては不利になるような話が進んでいるようです。

 「どう考えても負担が増えるだけ、何も選択肢がない子会社に、そんな無理じいするなんて、この会社、良心てェもんがないのかヨ!」。まあ、親会社が両親(※良心)そろっているとは限らないのですが…、なんてシャレを言ってる暇はありませんゾ。深刻ですよ、この話。

※ 「リョウシン」のシャレです。すみません。

 本当は撤退したいある事業。それを本体から切り離し、子会社に押し付けようてェことなんです。そりゃァ、子会社としては大変ですワナ。何とかひねり出している利益を丸々食っちまうような、それくらい不採算事業を押し付けようってェ話です。部長が怒り心頭なのも分かります。大体、この子会社ができたのも、もとを言えば、本体でやっても利益がでない事業、それを百も承知でその事業部を独立させ、小さな事業でも小さな身体なら何とかなるだろうと、それで始まった会社です。

 ケナゲなもんですよ、皆で頑張って、ようやく利益を計上するようになった矢先、今度の話です。子会社に言わせれば、ヤレヤレと思っていたのに、またお荷物を背負わせるのか、何とご無体な、そういうことですワナ。部長もある時期、その子会社に出向して、一緒に踏ん張った、言わば戦友です。「親から見放されたような会社なのに、ええっ、かわいじゃあねェか、親孝行をしよう、リッパな会社になろう、そうやって頑張ったんだゼェ。こんなに親孝行な子を、ええっ、この親は、一体、どうしようってェんだ!」。

 よく考えるとこの話、何もウチだけのことではないようですナ。見回しますてェと、あちこちに同じような話があるようです。いずれにしても、子会社が立ち上がるときの事情があるようで、どうも、根が深い問題かもしれませんゾ。

 例えば、某大手メーカーの一部門が分社独立した有名部品メーカー。元々、親会社の経営危機が発端で、お荷物だった部門を切り離したのだとか。で、切り離された面々は、文字通り捨てられた子供、そう思うしかありません。猛烈に働き、今に見ていろ親会社、とばかり頑張ったそうな。

 それが、いつしか親会社も一目おく存在になった途端に、代々見向きもしなかった社長のイスに、親会社の役員を送り込むようになった話、業界では有名ですワナ。普通なら喜ぶ子供の成長、この場合、子会社が成長すると心配になって、逆に、親が締め付けるようになる。何か、子供に嫉妬している親みたいですヨ。独自性を発揮して、本当に独立されると困るのでしょうか。

 あるいは、同じような境遇のある会社。業績が上向き、あるときから親会社を上回る利益を出すようになったら、親会社に吸収合併されたとか。それならそれで、ちゃんと配当を取れば、親会社にとってもいいことじゃァないですかねェ。それを吸収合併なんて、社員のヤル気が失せますワナ。

 言いたいのは、子会社の社員の心情です。いくら頑張っても、社長は上から降りてくるは、不採算部門を押し付けられるは、挙句に良くなったら吸収されるはじゃあ、それこそやってられねェ! ってもんですヨ。分社化した理由はいろいろあるのでしょうが、いずれにしても、何とか従業員を残したい、自立させたい、そう思ったことに違いはありませんヤネ。人間として親が子供を育てる、そのことと同じ、いや、そのはずなのに、会社てェもんは、どうして、こんなに理不尽なことができるんですかねェ。

 さてさて、この話の続き、いつもの赤提灯に決まってますワナ。「何よォそれっ、冗談じゃあないわよ! 皆で頑張ってきたのに、どうしてそんなことするのよォ。ヒドイ、あんまりじゃない!」。お局もカンカンです。「大体、今まで何もしてあげないでほったらかし、挙句、親の調子が悪いから、その悪いところだけを押し付けるなんて、親と子という関係より、第一、人間じゃあないわヨ!」。だから、人間ではしないことを会社がしているわけで…。

 部長も、飲むほどに過激です。「いっそのこと、ダメな本社の社員も、全部、引き受けちまったらどうだ。ええっ、それで会社の名前も『ふきだまり工業』ってのはどうよ。それならそれで、子会社の役割がハッキリするてェもんサ」。ウ~ン、それもいいかもしれませんヨ。最初から、ダメなものを引き受けて再生したのですから、その方が燃えるかもしれません。

 お局も過激です。「そうねェ、アタシだったら『涸会社』か『枯会社』って呼びたいわネ。頑張っても、結局、かれてしまうんだから、はじめからそう呼べばいいじゃない」。冗談はさておき、親会社が子会社を喰い潰すようでは、いかにも寂しい話ですナ。それは、資本の論理だから当り前、それも分かるんですが、結局、子会社の活力が失われて、元の木阿弥じゃァありませんか。一生懸命の成果を、それまで知らんふりを決め込んできた親会社の都合で振り回すなんて、結果、共倒れになってしまいますワナ。

 お局、止まりません。「ねェ、トンビが鷹を生むって言うでしょ。子供が成長して親を追い越すなんて、それは親の誇り。会社だって同じよォ。もしも、親がダメになりそうになったら、立派になった子供の手を借りる、それもいいじゃない」。「でもね、最初から子供をアテにするのはダメ。親は、親で自立してなくちゃ。親でいるのも、大変なのよ。それができないのなら、親を返上しなくちゃね!」。

 いやぁ、その通りだ、感心したゼェお局。なのに、「次郎さん、ちゃんと親、してる? いも飲んでばっかりで心配よォ」。オイオイお局、いつも飲んでるのはアンタにも責任があるだろうに。でもナァ、いつもお局の一言、効くんだゼェ、ありがとうヨ。