「ったくもう、あいつには手を焼くゼェ」。いきなり、部長が吠えながら入ってきました。「おいおい、誰がどうしたのさ? 」。「聞いてくれよ次郎さん、あの変わり者が、また変なコトをしてくれたんだ。それも、社長に直訴しちまうんだから、困ったもんだ」。どうやら、K君の勇み足らしいのですが…。
このK君、確かに、変わっていると言えば変わってますよ。外見を言っちゃあいけないかもしれませんが、冬でも半そで、裸足に下駄か草履(ぞうり)。もう少し軽装になるてェと、あの、裸の大将みたいなんですナ。でも、ファンもいましてネ。優しいところもあって、人が見ていないところで社会貢献活動をしたり、ボランティアで老人ホームの慰安会に参加したりしているんです。
ところが、今回のように、たまに勇み足といいましょうか、手続き無視といいましょうか、とにかく、思い立ったら一直線、ほかのことが目に入らなくなっちまうのです。今度の事件は、開発した商品を、多分、部長がチョット否定的な評価をしたんでしょうナ。それを、このままじゃあつぶされる、ひいては会社のためにならないとばかりに、社長のところに一直線、そんなことらしいのです。
でも、それを別の視点で見れば純粋てェコトでして、思い立ったら一直線、気持ちも行動も超純粋なんですヨ。開発でぶつかる課題や問題の解決策にしても、何を、どうして、どうやったらいいのか、そのアイデアがほとばしるように出てくるんですナ。それも、変わり者と言われるくらいですから、普通じゃありません。そのアイデア、誰も考えたことのない、言い方を変えれば突拍子もないことですから、最初は皆ビックリ、あるいは、仰天するくらいに変わったことなんですが、しばらくすると、これからのトレンドにドンピシャの商品になったり、後になって評価されたりするんですナ、これが。
「で、社長はどうだった? 」。部長に聞きますてェと、「それが、社長は『商品化してもいい』って言ったらしいのサ」。「じゃあ、一件落着、それでいいじゃないか」。部長も、それじゃあ納まりません。「てやんでェ、結果オーライはたまたまのこと。開発てェもんはチームワークじゃないか。皆とはぐれるようじゃァ、ちゃんとできるわけなんてありゃしねェ!」。すっかりオカンムリですヨ。
しかしK君、変わり者ですが、いいところもあるのです。「でもナァ、変わり者って、案外いい発想をすることもあるじゃあないか。それが、回りまわって会社のためになるのなら、それはそれで評価してあげようヤ」。部長、目は分かっていると言っているのですが、口はへの字のままです。
はぐれ者、これも考えようですヨ。はぐれることは、言い換えれば、もともとの保守本流からはぐれただけで、それはその会社の事情ですワナ。開発てェのは、お客様がどう見るか、要は、お客様がいいと思うかそうでないか、それだけの話ですワナ。ずうっと同じような商品じゃ飽きられますし、つまらなければ買ってはくれません。いつも、お客様のために新しいコトにチャレンジするのが開発てェもんですヨ。要するに、開発てェもんは今までなかった事業や商品を考えることじゃありませんか。
だから、新しいコトってのが大切でして、良いも悪いも新しくなくっちゃいけませんヤネ。この、新しいコトてェのは、言い換えれば変わったコト、違うコト、とも言えませんかねえ。変わり者と言われること、実は、それだけで新しいてェ証明ですワナ。
「いいかい、新しいコトてェのは、今までとは違うってコトさ。それを、もっと言い換えれば、今まで誰も知らない変なコトさ」。部長の口も、少し真っ直ぐに。「そうか、変わり者は新しいアイデアを創出するシト、そう見ればいいてェことか」。やっと、部長も納得です。
見回すと、いますワナ、そういうシト。どこの職場にも、どんな会社にも、変わり者というレッテルを背負ってるシト、心当たりはありませんか。そういうシト、全部が全部成功しているとは限りませんが、ある程度のポストに着いたら、思うようにガンガンやって、案外、成果を出しているようです。要は、良いも悪いも自らが情報を発信して、その具現化のために、一直線に仕事をしているシトですヨ。今まで、何もなかったところに何かをつくり上げて行く変わり者。ならば、変わり者の創造力を評価しなくちゃあいけませんヤネ。さてさて、今夜も赤提灯。変わり者の話題になりました。
「変わり者ねえ、アタシには分からないわ。だって、アタシみたいにまともな人は分からないのよ、変わり者なんて、そうでしょ?」。お局、いきなりなんてェことを…。部長が飲みかけた焼酎を吹き出しそうになりながら、「そ、そうか、変わり者のココロは、変わり者にしか分からないもんかァ?」。そう言うと、「大体、変わり者と言われる人は、周りの空気が読めないのよォ。例えばネ、誰もが理解できることを、自分だけ分からなかったり、その逆に、自分の理解を周りに押し付けたり、そう、究極のKYかもしれないわネ」。う~ん、でもお局、それって、今のアンタがそうなっていますゾ。
飲むほどに酔うほどに…。極めつけは、最後のお局の一言です。「アタシ、1回でいいから変わり者って言ってほしいのよォ。だって、こんな平凡な生活、つまらないじゃない。毎日毎日、会社に通う繰り返し。周りの人も平凡だし、アタシも普通の人でしょう。少しは、変わったコトも言いたいし、変わった人たちとも出会いたいわよ。もっと、刺激が欲しい、ねェ、そう思わない?」。
いやぁ、これで分かりましたよ、お局はやっぱり変わってますわナァ。でも、そのお局の話に、いつも感じ入っているアタシたちも変わり者、なんですかねェ。やれやれ…。