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SFショートショート・久保田教授の「どんとこいIT理論」

 2030年,Wikipedia大学とGooglezon大学(GoogleとAmazonが合併して作った学校)によるWeb大学革命が起き,世界の大学教授はどちらかの教授にへと自然に淘汰された。もっともWeb大学では自分で申請すればだれでも教授になれる。しかし,授業の人気ランキングでベスト100にノミネートされなければ受講生は集まらないので,不人気の授業は姿を消して行く運命だった。授業収入はレポート添削一件につき5ドルで,授業内容,添削方法,受講者人数制限に関しては教員の自己判断に任せらることになっていた。

 そんな中で久保田教授は持ち前の奇想天外な講義「どんとこいIT理論」が学生にウケ,その収入を世界豪華客船「飛鳥」の世界周遊コースにつぎ込んで,Web大学の講義を続けながら世界を旅するという気楽な道を歩み始めた。元々教授と言うよりも冒険家が性に合っている久保田教授は,かねてから念願だった「ドクトルマンボウ航海記」北杜夫のような風来坊人生に自然に収まっただけの話だった。

 長い航海では講義の合間は甲板にあるテニスを楽しみ,たまに打ち上げられるトビウオやマストで羽を休める渡り鳥などをiPadカメラで撮影,そのまま画像検索をかけて新種とわかるとオンライン学会にメール送信するのが日課となった。

 東京湾を出航してから3カ月目,モルジブで10日間の停泊となった。朝のマーレ港に寄港している飛鳥の甲板で,久保田教授は特製ブレンドのドリップコーヒーを片手にiPadで日本経済新聞の電子版を読んでいる。

 早出の漁船がロブスターを大漁にして港に帰ってくるのを見ながら「さぁて,授業でもすっかな」と気だるそうにUstreamを起動した。受講者は世界中にいるので,授業の映像コンテンツはいつでも再生できるオンデマンド配信とするのだが,世の中にはいつ寝ていつ起きてるのかわからぬ人種がいるもので,いつも誰かしらがリアルタイムで授業に参加してきた。

「おはよう諸君,どうだ,このモルジブの抜けるような蒼い空に目映い白い帆船が並ぶマーレ港は,まさにもこの世の楽園だと思わんか」と大胆に赤いバラの絵柄をあしらったアロハ姿で,コーヒーカップを差し出しながらネットカメラに向かって語り始めた。さすがに世界一周用の豪華客船だけあって,衛星回線は地球のどこにいてもつながり,H.264のオンデマンド映像の配信可能という環境を備えているのだ。

「うぉ~,自分だけズルイぞクボタツ,なにがモルジブだぁ,こっちはこれから出勤前だぞ」と叫んでいるのは日本人の生徒たち。時差からするとちょうど日本では出勤前で,あまりできの良くない連中らしい。

「ふん,我が輩はスナフキンみたいに旅する賢者なのだ,いいかよく聞け,金儲けしか考えん愚者ども! 我が輩のようになりたかったらまず目先の幸せなんぞ捨てて旅に出よ。ハハハ。さすれば我が輩の同士としてやろうぞ。だがどうせお前らにはできんだろ,腰抜けども。ハハハ」といつもの世の中を皮肉った馬鹿笑いから授業が始まる。

「さて最初のレポート添削は誰だったかな? ふーむ,ゴルフだけはうまい昔ティーンエイジャーの石川竜君か。君の提出レポートをいま見ているのだが,なんだねぇ~,いつまでたっても君に彼女が出来ないわけだね~,相手のことなどおかまいなし。自分に都合のいいことだけを述べまくっておる。いいかね“お客様はか・み・さ・ま”なんだ。消費者ニーズを把握しなきゃ元も子もないのだよ。それが理解できたらマインドマップでアイデア発想してからMECE(提案内容のムダ,重複を取り除いてシンプル化する手法)で絞り込み簡潔にまとめること。いいかね,ビジネスプラントとは消費者が望むことを見極めて,それに合致する自分の独自提案をアイデア出ししてから,誰にでもわかように簡単明瞭に提案せにゃならんのだ。論理的に顧客ターゲットニーズを満足させるコンセプトを独自発想すればビジネスの成功につながるといつも言っとるだろが,んったくー」

 石川竜君からのプレゼンビデオレターを早送りで見ながら,たいして役にも立たぬアメリカビジネスハウツウを捲し立てた。生徒によっては横文字ハウツウならなんでも信じ込むタイプ向けのトークショーだった。

“えーと,次の生徒はと,おぉ中国福建省のできすぎ君の番だったな,こいつは中国の天才 諸葛孔明の孫だというから丁重に応対せにゃならん,教育者と言えども生活がかかっておるからな,ちょいとオダテて閣下に研究費をおねだりしちゃう作戦に出るとするか”

 私は500年後の地球環境崩壊を阻止する方法として中国4000年の知恵をアナライズしてみた誇張現実をシミュレーションしてみました,と諸葛孔明の孫が捲し立てる。広東語をクラウド翻訳システムを介して同時通訳する日本語で聞いた。Wikipedia大学のラーニングシステムにはかなり精度の高い同時翻訳システムが配備されており,3年ほど前から世界中の言語の違いを意識せずにICT(コミュニケーション学習)が出来るようなコミニュケーション環境となっているのだ。

「始めてよし」とiPadの音声認識に声をかけると3Dシミュレーションが再生した。2000年後には人間の人口爆発が地球の重さと等しくなるまでに膨張してゆくおぞましい様子を5分ほどのVR(バーチャルリアリティー)にシミュレーションしてある。

「なるほどバクテリアの生物多様性をプログラムした複雑系モデルを人口調整に機能するモデルとしてフューチャーしてみたわけだな」と内心スゲーやつだなと驚きながらも,どーってことないといった顔でひとこと言った。

「ふむ,これは小生の研究にも応用できるのでGoogleドキュメント「ID:kubotatu」「パスワー:○×$@□」にアップしておいてくれたまえ。あぁそうそう,ついでにスプレッドシートに,このシミュレーションの生データも共有ファイルとしてアップしておくように。あとで君と私の研究テーマについてコラボしよう」と『GoogleAdd』環境に構築してある研究環境へのアップデートを指示した。

GoogleAddとは,研究者で構成されるサードパーティーによってGoogleAppsに独自のカスタマイズ機能をマッシュアップした,独自のネットワーク型研究環境のこと。世界の研究者たちは国別に構成される学会に縛られることなく自由に共同研究を進めるのが通常となっている。

“しめしめ,こうして共同研究プロジェクトにしておけば閣下は研究費100万元はポンと出してくれるだろうて,うひょひょ”と捕らぬ狸の皮算用を企んでは毎度毎度こっぴどい目に遭うのがオチの久保田教授であった。

 そこへiPadのセキュレタリーが「教授,Amazon出版社からビデオメッセージが届いております」と発言した。セキュレタリーのアバターは先生の趣味でブレードランナーのレイチェルをモデルにしてある。

「親愛なる久保田教授,私どもAmazon出版社はぜひ久保田教授の「どんとこいIT理論」を我々の電子出版として発行させたいと願っております。我々の誇るアルゴリズム・マネージメント・システムの算出したデータによれば,教授の電子書籍を購入するであろう顧客層が7万3702人いらっしゃいます。ご存知の通りに当社の支払われる印税は70%でございます。私どもは教授の「どんとこいIT理論」を900円としたいと考えております。前金で4643万2260円(売り上げ予想6633万1800円×70%)をお支払いさせていただくことになります。なお,執筆に際してこれまで発行なされたご著書からの引用はその出版社さまと私どもの専任弁護士とで調整させていただきますのでご心配なきよう。よいご返事をお待ち申し上げております。」といかにもアメリカンエリートっぽい担当者が低姿勢で述べた。

「よしよし!えぐい話がまたも舞い込んで来たぞ!だがまてよ,いますぐYesYesと返信するのは余りに芸がない」と小心者の久保田教授はAmazonサイトの公開LOGをサーチして,自分の著書を閲覧または購入した顧客データーを,クラウド型ログデータ解析サービスを使って割り出してみた。

「推定5万人と出たか。うむ,おおむねAmazonの数字は嘘ではあるまい。それにあれだけの優れたアルゴリズムとクラウドシステムを使って新規顧客開拓をしているとの噂もあるから,販売数は20%ほど増えるはずだ。それにしてもアドバンスで4500万円,その後もバックナンバーとして永久的に販売されるのだから毎年ちょろちょろ小銭が入るわけだ。うぅむこりゃ前から研究してみたかった「すっきりまるっきりお見通しIT理論」研究の資金源にもなるぞ」とどこまでも単純おバカ教授は皮算用をするのであった。

「さぁーて,ついでに来週の講義の準備でもするとするか,たしか次なる講義は・・・『脳内想像力革命演習』だったな」 ネットにありそうな情報に対して,授業料を払って勉強する生徒などいなくなった。ネットにあることはネットで済ませる時代なのだ。だから授業の準備とは教授の研究から得た独自知識と生徒個人の潜在能力を伸ばすプログラム作成を意味する。

 と久保田教授は一眼レフカメラのムービーモードで撮影した録画を同期更新してあるYoutubeを呼び出し,その中から「バリ島のウルワツ岬に押し寄せる巨大な波をプロサーファーたちのチューブライディングしているシーン」をiPadにダウンロード,さらにハッブル宇宙望遠鏡が捉えた「21億年前の星」写真を合成して現代のインドネシアに押し寄せる波が宇宙暦前21億光年前のビッグバンからのエネルギーによるものだとする3D映像をオーサリングしていった。

「このアニメのように生徒諸君の宇宙創世に関する独自理論を3D化して来週までに提出せよ」と課題をメッセージした。 「でもなー,ネット教育があたりまえになったおかげで世界中で一番人気の教授の授業にだけ生徒が受講するようになったんだよな,つーことはその科目で先生家業やっていけるのは世界に一人だけってことになっちゃうんだよな,ネットは一人勝ちの世界だもんな,やばいやばい,もっと知恵を使う授業を工夫しなきゃ食いっぱぐれちまう」とぼやきながらサーフィンに出かけた,相変わらず脳天気の久保田教授であった。