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第3の道を演出する3人のブレーンとは

 菅総理の提唱する「第3の道」については、大阪大学社会経済研究所教授の小野善康氏の影響が大きいとされている。

 実際に藤末も年初に菅財務大臣(当時)に会った時に小野氏の著書を薦められて読んだ経験がある。また、国会の質疑の間で話をしたときも、小野氏と研究会を開いて勉強していると言っていた。その時、菅財務大臣が示した資料には「経済学の数式が数多くかかれており、相当な勢いで菅財務大臣が勉強をしている」ことが理解できた。ちなみに小野氏も菅総理や私と同じ東京工業大学の出身者である。

 さて、小野氏は「新政権の経済政策を考える」(『現代思想』,2009.10,pp.138-145.)の中で、経済全体の効率化は「余った労働力がすべて活用され、それが生み出す物やサービスが使われて、はじめて実現される」としており、新たな需要をつくる分野として環境と介護を挙げている。このように、小野氏は、雇用と需要の重要性を説き、それを創出する財政政策のための増税を肯定する立場をとっている。6月11日の産経新聞には、小野氏は「増税で成長分野の雇用創出」という投稿をしており、これに小野氏の考えがまとめてあり、菅総理の発言は小野氏の考えを基にしていることが分かる。

 一方の「強い経済、強い財政、強い社会保障」という言葉は、政府税制調査会専門委員長で東京大学名誉教授の神野直彦氏が生みの親とされている。神野氏は政府の役割を重視して、高福祉・高負担をめざすべきとする立場だ。例えば、神野氏は「国民生活を置き去りにした財政再建至上主義に明日はない」(『エコノミスト』,2006.8.22,pp.86-89.)の中で、1990年代のスカンジナビア諸国が、『強い福祉を実現するために「強い財政を築こう」』を合言葉としたことを紹介し、租税負担と経済成長の間には1980年代のような負の相関関係はみられなかったことを示している。

 また、社会保障の重要性については、慶応大学商学部教授の権丈善一氏の主張を重視していると思われる。権丈氏は、「積極的社会保障」を提唱し、社会保障は「消費性向を高める経済政策手段」であると述べている。権丈氏の考えについては「社会保障が雇用を支え内需主導の成長をもたらす」(『週刊東洋経済』,2008.12.6,p.62.)や「増税と景気と社会保障」(『週刊東洋経済』,2010.5.22,p.9.)に示されている。

エコノミストの評価

 この第3の道をはじめとする菅総理の政策理念については、熊野英生氏の『菅首相の「第三の道」の政策思想を問う』(『Economic Trends』,2010.6.9.)や、山崎元氏の「菅新首相の経済政策。第3の道は「社会主義化への道」か?」(『山崎元のマルチスコープ』,2010.6.9.)がよくまとめられていると思う。是非ご一読頂きたい。まだ、菅政権は動き出したばかりであり、エコノミストたちも判断をしかねるというところだと思う。

菅総理には運があるから

 これまで見てきてとにかく私が感じるのは、菅総理の経歴と経験,そして「運のよさ」だ。昨年末に藤井財務大臣が体調を理由に財務大臣を辞任し、菅国家戦略担当大臣が後継した時に、私は「総理大臣になるためには大きなプラス」だとすぐに思った。

 総理大臣の職務を進めるのは官邸だけでは難しい。少なくとも「重要な省庁には独自のネットワーク」がなければならない。それでなければ現場の情報や新しいアイデアは入ってこない。その意味で菅総理は、社会保障を担う厚生大臣、経済成長戦略を担う国家戦略担当大臣、そして財政を担う財務大臣を経験している。

 つまり、「経済、財政、社会保障」を大臣として担当した経験を有するのだ。このことは総理大臣として「強い経済、強い財政、強い社会保障」を実現する上で非常に大きな強みである(私は鳩山総理がなぜ外交政策でベストな判断をできなかったかは外務省の経験がないことにあると考えている。ワシントンの様子など外交の現場の情報を直接くみ上げることが判断が変わっていたはずである)。

 「菅総理は明確に新しい経済社会システムを構築したい」と考えていると私は見ている。私自身は、「殖産興業」が富国との考え方であり、その面から菅総理の理念の実現に貢献したい。