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二代大西浄清作「鶴ノ釜」。鶴を模した大胆な造型で異彩を放つ、名工大西浄清の傑作。
二代大西浄清作「鶴ノ釜」。鶴を模した大胆な造型で異彩を放つ、名工大西浄清の傑作。

「形も彫刻も初代や二代をなかなか追い抜くことができない。どこまでこだわるのか、と言いたくなるくらい彼らは突き詰めているんです。施主がどんなものを望んだのか知りたくもあるんですが、多分彼らの想像以上のものができているはずです」

 実際に過去の名品の写しを作ろうということで、持ち主のところに赴いて、寸法を測り写真を撮って、スケッチまで描いて、結局は「できない」と観念し、しっぽを巻いて帰ってきたこともあると大西は言う。先人たちの作品との対峙は伝統的な工芸の世界では避けては通れない宿命である。現代の匠たちは、現代の最先端の技術で作られた効率的で使いよい製品との比較のみならず、長い歴史の中で作られた「傑作」を常に相手にしなければならないのである。しかも釜の場合は、日本刀などと同様に、過去と同じ素材はもう手に入らず、技法も完全な形で伝わってもいない。その状況で、彼らは、奇跡的に作られたとも言える過去の名作に近づく作品を作り出す挑戦を繰り返さざるを得ない。

十六代大西清右衛門作「俵釜」(京菓子司 俵屋吉富蔵)
十六代大西清右衛門作「俵釜」(京菓子司 俵屋吉富蔵)

「復元するにしても、まったくオリジナルの通りにしようとしても難しい。けど、自分なりに解釈して作れば違うものができてしまう。でもとにかく復元してみる。失敗もあれば成功もある。失敗したら、もっと良くなる方法を考えて試してみる。そうすることで新たな糸口が見つかりますし、繰り返すことで先人の技法の癖が見えてくることがあるんです。それが元の釜の癖と同じなら、ああ、同じ作り方をしているなって分かる。写してみて初めて、霰(あられ)のバランスや鐶付(かんつき)の位置とか、先祖が良く分かって作っていたことが理解できるようになるんです。復元は難しいけど、得るものは大きい」

十六代大西清右衛門作「かどくち釜」(栄春寺蔵)
十六代大西清右衛門作「かどくち釜」(栄春寺蔵)

 分からない技法があれば、とにかく試す。こうして大西は、現在まで過去の名作の写しを手がけ、大西家よりも歴史が古い、500年前九州の芦屋で使われていた挽き中子技法の復元にも取り組んできた。その上で、新たな創作に挑むためである。

 名作に近づき、さらにそれらを元に作り上げた独創的な作品は、施主からの注文品を手がけつつ、合間を見て作成する。それらがたまると個展を開く。そのペースは4?5年に1回というゆっくりとしたものだが、着実に回を重ねている。俵を縄目まで鉄で表現した「俵釜」、城門の扉の蝶番を転用した鐶付とつぎはぎされた共蓋を組み合わせた「かどくち釜」といった独創的な作品に加え、芦屋で作られ、制作技法が解明されていなかった八角形の覆垂(おだ)れ釜の甲に透かしを入れた「源氏香透八角釜」、「夜学釜」などの写しといった、古典的名作に範をとった作品もある。ただただ自らの頭の中にあるイメージを釜に託し、表現してきた。それらはすでに、「湯を沸かす道具」という域を完全に超越したものだと言えるだろう。