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 菅政権の新成長戦略が定められ、補正予算も組まれ、いよいよ実現に向けて動き出した。

 しかしながら、私は、新成長戦略はまだまだ不十分だと考えている。とくに「経済政策の全体像が見えない」ことが大きい。デフレ脱却と名目成長率の目標3%を示したことは、今まで数多く作られた戦略(21世紀になってから6本)に比べれば大きな進歩であるが(今までの戦略は将来不安を緩和するような成長戦略を描けていないとの批判が多かった)、色々な省庁が個別に提案した政策を組み合わせて作ったとの印象が強い。

藤末の経済政策の柱

 私の経済成長戦略の提案は

(1)「労働生産性が高く」また「経済波及効果(乗数効果)も高い」産業、つまり自動車(輸送機器)、電機、化学といった産業において、わが国でしか作れない製品やサービスを生み出し、また、生産工程の高付加価値化を進め、より一層生産性を高め、同時に汎用化した製品や製造工程は海外に移転し、より大きく成長する海外市場で収益を得るようにすること
(2)雇用が大きいが、一方で生産性が低いサービス産業、つまり医療福祉や教育といった産業において、大きく生産性を上げること。(生産性を上げる早道は看護師や介護士の給与を上げること)

の二点である。

 下図は、大和総研シニアエコノミスト熊谷亮丸氏の資料に基づき作成したものであるが、(1)については、環境エネルギー問題への対応でイノベーションを進め、同時に新しい製品を国際市場に展開し、古い製品の製造工程を海外に移転する。

 (2)については、介護や医療、教育への政府支出を増して、一人当たりの収入を増やせば生産性を上げることができる(一人が行える仕事量が同じであっても収入が倍になれば生産性は倍になる。スウェーデンの介護士の平均給与は400万円を超えており、わが国の介護士の平均給与200万円の倍となっている。つまり、スウェーデンの介護士は日本の倍の生産性であることになる)。また、納税者・社会保障番号の整備などによりITを活用する環境を整備することによりサービス産業の生産性は格段に向上できる。

産業の生産性を上げ、経済を成長させる!

 そのためにも国や地方政府の予算の分配を「雇用効果が高い分野」にシフトすることが必要である。同じ予算額であっても公共事業は1000万円で生まれる雇用は0.9人、介護は2.5人と3倍近く違う。公共事業は土地の買い上げや建機のリースにコストがかかり人件費の割合が低く、一方介護はコストのほとんどが人件費であるため、より大きな雇用が生まれることになる。下図のように「雇用誘発係数」(ある産業において需要が1単位発生したときに直接・間接にもたらされる労働力需要の増加を示すもの)を用いて社会保障分野が大きな雇用を生み出すことを示しているものもある。

社会保障分野の雇用誘発効果
出典:平成20年版厚生労働白書より
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具体的な政策

 では具体的にどのような政策を行うべきか? 大きくは以下のように考えている。

(1)サービス産業分野(介護・医療・教育分野)及びエネルギー環境分野(太陽光発電、風力発電、電気自動車など)における規制見直し(制度創造)による新しいビジネスチャンスの創出
(2)エネルギー環境及び医療福祉分野における研究開発や情報化への資金投入の促進。政府の研究開発費を増やすだけでなく、金融制度の見直しを行い、リスクマネーをイノベーションに流れるようにする
(3)政府系金融やODAを使い日本企業の国際展開を支援。また、自由貿易協定を戦略的に強力に推進し、イノベーションの成果を世界市場に迅速に展開できるようにする

 また、グローバリゼーションは、わが国の企業の活性化に避けては通れない課題である。次の図は、国際展開しているグローバル企業と国内にとどまるドメスティック企業の一人当たりの付加価値の推移である。一人当たりの付加価値は、冷戦が終了したことから乖離が始まっており、2007年ころには付加価値が6倍近くに乖離が広がっている。

グローバル企業とそれ以外の業種の一人当たり付加価値額が乖離