PR

 前回に「サービス産業分野(介護・医療・教育分野)及びエネルギー環境分野(太陽光発電、風力発電、電気自動車など)における規制見直し(制度創造)による新しいビジネスチャンスの創出」ということを提言したが、具体的な『制度創造』を示してみたい。

 下図は、雇用誘発係数を示している。青い丸は、資本集約的で雇用創出の他産業への影響が大きい産業であり、「輸送機械(自動車)」、「電気機械」、「鉄鋼」、そして「農林水産業」までを含んでいる。また、赤い丸は、労働集約的で雇用創出の即効性がある産業で「医療、福祉、介護」を中心に教育や建設業も含んでいる。今までの公共事業政策はこの「建設業」に雇用創出を担わせていたことになる。

大和総研 チーフエコノミスト熊谷亮丸氏資料
[画像のクリックで拡大表示]

福祉介護分野

 まずは、介護分野である。老人ホームには「有料老人ホーム」と「特養ホーム」の2種類があるが、前者は価格が高すぎるため後者に希望が殺到し、入所は2年待ちという状況だ。後者はその財源の9割を公費と保険料収入でまかない、安い入居費用となっているため、待機者数は年間4万人ずつ増え続けているのである。

 その中間にあたるサービスが提示されていないことが問題であり、第一生命経済研究所の試算によると、介護産業の規制改革を行うと「有料老人ホームと特養ホームの中間的ホーム」の潜在需要がもたらす経済波及効果は約7000億円、雇用創出効果は他産業も含めると約10万人に上り、名目GDPの拡大効果は約3.4兆円と推測されている。

 また、学習院大学の鈴木亘准教授のシミュレーション試算によると「規制緩和(制度創造:介護福祉士試験・資格の見直しなど)による介護分野の需要創出は1.2兆円、創出雇用は16.3万人。そして公費負担は2300億円程度」となっている。非常に大きな雇用が生まれることが理解できる。

 介護報酬を上げ事業者の収益率を良好にし、事業者が介護報酬とは別に価格を自由に設定できる混合介護の仕組みを導入し、低価格の有料老人ホームの参入を促すなど、行政側が率先して新規参入を促すような規制創出を行うことが必要なのである。

医療分野

 医療分野も然りだ。米国で20年以上前から行われている治療がわが国では認可が下りるまでに10年近くかかるという話は有名である。いくつかのハードルがあり、まずは、薬事法では新薬の効果を調べる臨床研究において医師が主体となり民間企業が参加できない。このため、研究と商品化の間に大きな壁ができている。また、研究者や医師と民間企業が協働して安全性などを評価する体制がない。欧米では整備されている制度がわが国にないために研究の成果が商品化につながらずイノベーションを妨げているのである。ちなみに、欧州の薬事制度には、申請後何日以内に承認に関する決定を出すといったガイドラインもあり、いつまで待てばよいか見当をつけやすいという。

 「イノベーションと規制に関する検討会(平成22年3月)」においては「国産部品からなる医療機器の再輸入の経済的損失」が指摘されている。提言書においては『運動障害等の治療技術の研究で使用する脳デバイスの要素技術・部品の多くが日本の優れた技術によるものである。しかし、現在の医師法、保険法、薬事法、製造物責任法などの法規制の下では、それらの技術や部品等を安価で輸出し海外で組み立てた医療機器を高額で再輸入するしか方法がなく、その経済的損失は約800億円(2008年度実費輸入超過額として)と推定される。 その後の中国、韓国、インド、欧米等の医療機器産業の伸びを考慮すると2010年度予測として約2000億円の経済損失が見込まれる。』とされている。

 また、同提言書によれば『医師不足による地域医療の崩壊を防ぐための遠隔医療システムを導入したコミュニティー型モデルが大きな効果を上げており、普及すれば国内全体で約1兆円の医療費削減が見込まれる。また、いくつかの制度的障壁がクリアされるなら、情報技術やネットワーク関連の機器として約9000億円、遠隔システムによる有料住宅ヘルスサービスとして約1500億円の市場が誕生すると推測される。 しかし、対面診療の原則(医師法第20条)、局長通達の曖昧さ、診療報酬プロセスの問題が普及の阻害要因となっている。』