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 このコラムでは誰を対象にして何を書くのか試行錯誤中ですが、最前線のエンジニアだけでなく、マネージャーや経営者に向けた内容も書いたらどうかというフィードバックを頂きました。今回は少し趣を変えて、マネージャーの方々に向けたメッセージを書きたいと思います。

 マネージメントの手法を表す言葉として、「ハンズオン」と「ハンズオフ」という表現があります。マネージャーが営業・技術等の実務の細部まで深掘りして関わることが「ハンズオン」。逆に、実務は部下に任せて、実務の細部には関わらないのが「ハンズオフ」です。

 日本では実務の細部には関与せずに部下に任せ、いわゆる人間力で部下のやる気を鼓舞する、「ハンズオフ」タイプのリーダーが理想的と思われてきました。「ハンズオフ」の代表としては、例えばNHKドラマ「坂の上の雲」に出てきた、東郷平八郎が挙げられます。天才的な才能を持つ参謀の秋山真之に作戦の立案を任せ、リーダーの東郷平八郎は部下の人心掌握に努めました。

 ところが、エレクトロニクス業界のような、グローバル競争が当たり前で、変化のスピードも大変速い業界では、最先端の技術を理解し、技術の深い理解のもとに経営を行う「ハンズオン」のリーダーが必要とされています。すなわち、技術に熟知し、参謀のように自ら戦略を立て、リーダーシップを発揮して戦略を直ちに実行するスピード感を持ったリーダー。グループを率いて自ら先頭に立って獲物を取りに行く肉食獣のようなリーダーです。

 前回のコラムでスイッチング・コストを乗り越える重要性を書きました。その際に、半導体など新しいハードウエアを顧客に販売するためには、微細化によってハードウエアの使い方が難しくなるにつれ、ハードウエアを使いこなすためのソフトウエアも同時に提供する必要があると書きました。これは当たり前に感じるかもしれませんが、実際に実行することは簡単ではありません。ハードウエア企業にとって、ハードウエアを設計・製造・販売することがコアのビジネスです。ハードウエアを使いこなすためのソフトウエア(ドライバ・ソフトウエアなど)は無料で顧客に提供される場合も多く、ソフトウエアは直接的には企業の売上に寄与しません。

 経営環境が厳しい昨今では、研究開発に関する人件費を極力圧縮する必要に迫られます。その一方で、ハードウエアの企業の中で、直接の売り上げに寄与しないソフトウエアのエンジニア向けに投資できるのか。ソフトウエアの人員に投資したとしても、売り上げに寄与しないソフトウエア・エンジニアの人事査定はどうやって決めるのか。ソフトウエア・エンジニアの社内でのキャリアパスはあるのか、役員まで昇進できるのか。ソフトウエア・エンジニアにとっては、ハードウエア企業であっても社内でキャリアアップする道が開けていないと、やる気を維持することは難しく、むしろソフトウエアを販売する企業で働きたいと思う方が自然です。

 一見単なる技術開発に見える戦略も、実現のためには人員配置、人事施策など企業の様々な経営側面に関わることが多いのです。このような問題を解決するためには、最前線のエンジニアだけでなく、企業の様々な階層にいるマネージャーが経営判断を適切に行う必要があります。そのような決断を下すためには、部下任せではなく常に最前線の技術を理解している、「ハンズオン」のマネージメントスタイルが必要です。

 フラッシュ・メモリの例では、微細化して信頼性が劣化するメモリを顧客に販売するためには、システム的に信頼性を向上させるコントローラ・チップあるいはソフトウエアの提供が重要になってきています(前回のコラム)が、ハードウエアの微細化に起因する、ソフトウエア重視の経営判断を下すためには、微細化に関する深い理解とソフトウエア技術の双方の理解が必要になります。