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 「次郎さんよォ、新商品、上手く行ってるって言えばそうなんだけど、何かスッキリしないのサ。いや、悪い事をしてる訳じゃないんだが、割り切れないというのか、何かズルイような気がするんだヨ。どう思う?」。今回の部長の相談、確かに変な悩みですゾ。

 説明しましょう。要するに、開発した商品はある機械装置の消耗品なんですナ。しかしこの消耗品、我が社の機械だけではなく、他社が製造した機械にも適用するのですヨ。ですから、自社の機械も、売れれば売れるほど、この消耗品も売れるのですから、嬉しいのですが、実は、他社の機械の方が売れ行きがよく、本音で言うと、そっちの方をアテにした方が嬉しいということなんですワナ。

 他社の機械の仕様に、敢えて設計を合わせた新商品。しかもベースとなる技術は我が社独自のスグレモノ。だから、簡単には真似されませんが、逆の立場で言えば、他社のシトはイヤでしょうナァ、自分の機械が売れると、アタシ達が儲かるのですからねェ。

 「でもよ、ウチの営業なんざァ、他社の機械が売れる方が嬉しいような顔をするんだぜェ。そりゃ、結果オーライかもしれねえが、やはりシックリこないんだ。こんな中途半端な嬉しさは初めてだぜェ。これってやはり変じゃないか。潔(いさぎよ)くないって言うか、釈然としないんだ、 他力本願みたいで…」。部長、嬉しいような悲しいような、いやいや、悲しい訳はありませんが、何といいましょうか、確かに、部長がスッキリしないのも頷けます。

 今夜は早めに赤提灯。どっちにしてもイイ結果なのですから、呑もうってことですヨ。

 「何よ、そんなことでクヨクヨしていたのね。変だと思ったわよ、いつもならグイグイ行くのに、今夜はチビチビなんだからァ」。お局、お見通しですヨ。確かにアタシ達、呑み方までスッキリしませんワナ。気勢が上がらないてェのはこのことですヨ。

 突然、「それって、小判鮫商法だと思えばいいじゃない。簡単なことよォ」って、いきなりお局が吠え始めます。小判? 鮫? って、一体お局、何を言い出すのやら…。

 「ね、小判鮫って知ってるでしょう。その商法、小判鮫商法と割り切ればいいのよォ。何も遠慮なんかしなくていいのよ。小判鮫商法は立派な戦略なんだから」。部長の目がテンになっちまいました。

 「コ、コバンザメって、オレ達の商品はショウモウヒン。サメじゃあねえんだ…」。

 「分かってるわよ、そんなこと。アタシが言うのは小判鮫。スズキ目コバンザメ科の硬骨魚の小判鮫。いい、よく聞いて」。

 「ほら、よく小判鮫商法って言うじゃない。先行した企業や大企業の周辺にいて、その企業が出来ない事や見逃しているビジネスをシッカリと実行する方法なのよ。でも、その言葉尻から、何かチャッカリと楽をしてやるような印象を持つ人の方が多いようだけど、実は、ちゃんとした戦略があり、しっかりと計算したビジネスなのよ」。う~ん、確かに小判鮫商法と言えば、それはそうかもしれませんゾ。

 「本物の小判鮫ってのは、全長10数センチから80センチくらいまで、色々な種類があるのよね。細長い頭頂に小判形の吸盤があり、回遊魚や船舶に吸着して移動するのが特徴よ。この、相手方に吸着して移動する方法が、何かズルイような感じがするので、小判鮫商法という言葉、あまりイイ印象ではないように聞こえるのよね。実は、アタシも初めはそうだったわ。でも、小判鮫の吸盤が、実は相手方に繋がっているのでは無いと知ってから、考えが変わったのよ。あの吸盤、限りなく相手側に近づくために、長い進化の過程で扁平になったらしいの。タコやイカのように能動的に吸い付くような機能は無くて、あくまで隙間を無くすために変形した体形なんですって。それが証拠にコバンザメは相手方に危険が迫った時は素早く離れ、自らの危険を回避するのよ。鯨が水面上に現れたとき、小判鮫がつられて出てくるような事は絶対にないの、エライでしょ」。

 へえ~、お局がこんなに小判鮫の事を知ってるなんて、知りませんでしたヨ。しかも、ソそれをビジネスの世界に置き換えて話してくれるなんて、いやあ、参りましたヨ。

 確かに、小判鮫は基本的には自らの力で泳いでいるそうで、扁平な吸盤状の魚体によって省力化を図っているだけなのですナ。しかも、相手側の為に寄生虫を食べてやったり、食べ残しを綺麗にする掃除屋さんの役割もあるてェから、相身互い。要するに、相手側の利益も考えて働いているてェ事ですワナ。決して楽をしているのではありませんヨ。

 「アタシ、この小判鮫の生態を知ってから、見直したのよ。楽して儲ける嫌なヤツと思っていたのが、逆にシッカリしたハタラキ者なのよ。ねェ、健気じゃない。相手を気遣いながら、決して相手の邪魔にならないように振る舞い、共存する。こんな思いやりに溢れた生き物なのよ!」。お局、小判鮫を絶賛です。

 「それまで、小判鮫みたいにチャッカリとして…なんて言っていたのに、小判鮫みたいにちゃんとやりましょう!って、アタシ、宗旨替えしたのよ。ね、そう思わない?」。

 「いやぁ、小判鮫商法てェのはそういうことか。よ~く解ったぜェ。確かに、チャッカリとばかり考えていたが、ちゃんと相手に合わせて設計したし、何より、相手に迷惑を掛けてる訳じゃないしナァ。多分、逆に喜ばれていると思うんだ」。部長も納得のようですヨ。スッキリした顔になりましたワナ。

 欧陽春くんも、「そうですか、小判鮫商法。確かに、合理的ですし、結果、お互いに win-win の関係になりますよね。これなら競争しなくても済みますし、案外、これからの時代の、新しいビジネス手法かもしれません。中国の人に教えてあげなくちゃ」。

 聞いていたアスパラ、「ダメダメ、欧陽春くん、中国の人に教えたら、小判鮫が大判鮫に、そのウチ鯨になってしまうよ。もうしばらくしてから、ね。まだ早いよ」って、弱気です。すかさず、「ははは、アスパラさん、鮫はサメですよ。いくら中国が大きい国だからといって、鮫がいきなりクジラにはなりませんよ。ご心配なく」。大人の対応ですゾ。

 お局は、「二人で何を言ってるのよ。鮫だろうが鯨だろうが、要は、相手に迷惑を掛けることをしない。しかも役に立つように考える。そこが重要なのよ。大きさじゃないの。配慮というか、思いやり。それが、これからの中国と日本の関係じゃないの?」、ズバリですヨ。

 「いやぁ、そうですよね。スミマセン。先輩の言う通り。ですよね」。二人も、スッキリ納得ですゾ。

 「このやり方、オレ達の会社、いや日本企業の、これからの本質的な経営のヒントになるかもしれないぜェ。今までみたいに、常に主流でなくちゃいけねえとか、大きな体になることが当り前。そんな事ではなく、他に主役が居てもいいじゃないか。主役の座なんざァ素直に明渡して、小判鮫のように相手のことを考えながらも共生する。そんな経営手法がイイかもしれねェ。なあ、次郎さんよォ」…、部長がしみじみと話しました。

 確かに、無理せず、無駄なく、穏やかに暮らす小判鮫。そんな、小判鮫型経営も捨てたもんじゃありませんゾ。皆さんも実践してみたら如何でしょうかねェ。

 呑むほどに酔うほどに…、お酒の量も段々と。おっとお局の目がすわってきましたヨ。
 「何よォ、アタシのお酌じゃ呑めないのかア、アスパラ呑めえ!」。やれやれ、お局が鮫でも鯨でもない、大トラになっちまいました…。