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 以上の例から、危機管理のリーダーシップについて学べることは、

・不確定な状況であってもできるだけ詳細に情報を開示する(情報開示)
・時々刻々変化する状況の変化や対応策を透明性を持って伝える(説明責任)
・責任の所在が不確定の時点でも、消費者の安全を第一に優先した措置を取る
・以上を迅速に決断し、直ちに行動に移す(決断・行動)

 組織のリーダーにはアカウンタビリティー、日本語では説明責任と翻訳されますが、その組織・製品が影響をおよぼす人たち、団体、企業などに対して危機の状況について情報開示し、説明する責任があるのです。そして状況が不確実な中であっても迅速な決断、行動が求められます。

 エンジニアの皆さんの中には、開発した商品が市場で不良を起こし、消費者や顧客からクレームが来たという経験を持つ方もいらっしゃるかもしれません。このような危機で必要なのは不良を隠すことではなく、透明性を持って顧客に不良情報と対応方法を開示し、製品の修理・回収などの決断を迅速に実行することなのです。

 国家レベルの危機管理問題も同じだと思います。時々刻々、新しい問題が発生する修羅場の中で、問題に対応しながら同時に、国民・外国の人達に対して情報を提供するのはとても困難なことだと思います。情報も正確ではなく、すぐに訂正しなければならないかもしれない。また、多くの人々に影響を与える決断を下すことは、容易なことではないと思います。私も含めて人間は弱いものですから、自分の失敗をできれば隠したい、多くの人々の人生を変えてしまう判断を下すのは怖い、という気持ちはよくわかります。

 しかし、このような不確実な情報の中、断片的な情報であっても積極的に開示し、決断・行動することが人々に安心を与えるのです。今回の震災に際しても、情報が不確実な中、被災地の町村長さんの中には、早い段階で自治体丸ごとの避難を決断した方もいらっしゃいました。町村民の安全を一番に考えた、素晴らしい危機管理のリーダーシップだと思います。他にも消防団・自衛隊・警察・町村職員・地元企業など、どちらかというと小さな組織で、決断・行動部分に優れたリーダー像が見られました。

 私はビジネススクールでケーススタディを用いて、古今東西、つまり様々な国・時代の営利・非営利組織での何十もの同様の危機管理の事例を学びました。数多くの事例から言えることは、消費者・国民など関係する人々の安全を第一優先にした透明性のある情報開示・決断・行動が、一時的には経済的・社会的ダメージを受けるかのように思えますが、最終的には危機を最小限にとどめ、関係する全ての人々に安心を与え、社会に受け入れられ、高く評価されるということです。危機に際しては、時代・場所・国・組織によらず、誠意を持って正直に情報を伝え、消費者・国民の安全を第一に考えて迅速に決断・行動することこそが、最も大事であり、どんな組織であってもリーダーに求められる資質なのです。

 もう少し突き詰めると、このような決断・行動ができる人は、誠実さや高潔さ、「世の中の役に立ちたい」という無私・奉仕の精神、「ノブレス・オブリージュ」が身についている人ではないでしょうか。明治時代に銀行や多種多様な産業を創設して経営に携わり、日本の資本主義を築いた渋沢栄一が「経営とは論語とそろばん」と言っているように。