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 企業の経営戦略には大きく分けて、あるサービスを市場に提供するため様々な事業を自社内で抱える「垂直統合型」と、得意な一部分のみに特化して事業を行う「水平分業型」があるといわれています。そしてグローバル競争を勝ち抜くために、電機業界は「垂直統合型」から「水平分業型」にシフトしていると言われます。これは「百貨店経営から専門店経営へ」とも言われます。

 例えばコンピュータ業界では、以前は米IBMなどの大企業が自社内でCPUなどの半導体製品、OSなどのソフトウエアの製造からパソコンなど機器の組み立てまで全てを自社で行っていました(垂直統合型)。それが現在では、CPUは米Intel、メモリは韓国Samsung Electronics社、OSは米Microsoft、パソコンの販売は米Dell、パソコンの組み立てはDellから中国企業にアウトソーシング、とそれぞれの事業に強みを持つ企業が分業を行っています(水平分業型)。

 前回のコラム「一番じゃなきゃダメなんです」で述べたように、世界でNo.1あるいはNo.2の事業でなければ生き残ることができないので、それぞれの企業が特定の得意分野に絞って勝負する水平分業化が進むのは必然です。しかし、各企業が一匹狼のように生き残りをかけた競争の土俵にあがり、それが徹底されていくのはよいことなのでしょうか。

 この原稿は米国から日本に向かう飛行機の中で書いています。筑波で開催予定だったナノテクノロジーの研究開発に関して日米欧の国際協力を議論する会議(International Nanotechnology Conference)が東日本大震災の影響により、米国ニューヨーク州立大学アルバニー校で代替開催となりました。アルバニーにはIBMや半導体製造メーカーを中心としたアメリカの半導体・ナノテクノロジーの研究開発拠点があり、クリーンルームの大きさは8000平方メートルにもなります。ここには日本の半導体装置メーカーや半導体メーカーの多くの技術者が駐在しています。IBM、米GLOBALFOUNDRIES社、Samsung社などの半導体メーカーと、米Applied Materials、オランダASML、東京エレクトロンなどの製造装置メーカーが、巨大なクリーンルームに同居し、密接に連携して技術開発を行っている姿に圧倒されました。連携は製造装置、プロセス・デバイス開発に留まりません。同じくニューヨーク州に半導体の拠点があるIBMは、高性能コンピュータといったアプリケーションを想定し、回路設計も含めて最適化しているのに違いありません。「水平分業型」に見えて単なる水平分業ではないのです。

 半導体業界では、微細化が進むにつれて、素子のばらつきは増加しています。プロセス・デバイスだけ、製造装置だけ、回路設計だけに分業されてしまった部分最適化では、高い歩留まり・高品質や高性能、省電力を実現することが困難になっています。半導体の製造装置、プロセス技術、デバイス技術、回路システム技術、そして場合によってはOSなどのソフトウエア技術も含めた全体最適化が必要になっています。完全に各企業がバラバラの「水平分業型」では全体最適化が難しいのです。

 全体最適化を行うためには、それぞれの分野に強みを持つ多くの企業による、連携の仕組みづくりが必要です。先ほどのアルバニーの例では、ニューヨーク州政府の厚い補助金、Sematechなど米国の公的な研究資金、参画する半導体メーカーの資金など、巨額な投資が必要になる半導体開発を資金面もサポートされる非常にうまい仕組みが出来上がっています。また分業している企業が一カ所に集結することで相互の連携を強化し、企業間での密接なネットワークを作り上げることができました。