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 「水平分業型」の勝ち組と言われる、半導体製品の製造に特化しているファウンドリ(半導体受託製造業)のTSMCはどうでしょうか。TSMCがプロセス・デバイス開発を行う際には決して単独ではなく、携帯電話向けのCPUの米Qualcomm、ゲーム機向けなど高性能な画像プロセサの米nVidiaといった、特徴のある市場でNo.1の市場シェアを持つファブレスの設計企業と密接に協力していると言われています。デバイス技術だけでは安定した動作を確保するのが難しくなってきた65nm世代あたりからTSMCは前述のファブレス設計企業との連携を円滑にするために、多くの回路設計者を雇用するようになったと言われています。一方、ファブレス設計会社では、TSMCといったファウンドリ企業との連携を密にするため、多くのデバイス・プロセス開発者が雇用されるようになったようです。「水平分業型」のようでいて、強みを持った企業同士で密接な連携体制をとっているのです。

 このような「垂直統合型」と「水平分業型」の両方のメリットを活かした「水平統合型」の経営戦略は、半導体開発に留まらず、電子機器の開発にも及んでいます。私が東芝でNANDフラッシュ・メモリを開発していた時には、米AppleはiPod、iPhoneなどへのフラッシュ・メモリの搭載に非常に積極的でした。Appleは半導体を製造しているわけではなく、半導体はあくまでも購入する部品にすぎません。しかし、Appleは半導体の技術者を雇用し、東芝やSamsung社といった半導体メーカーと密接に協力することで、自社の製品に最適化した半導体製品を作るように半導体メーカーをコントロールしようとしていました。

 半導体メーカーにとっては、半導体を熟知するAppleは完成度が低くても最先端の半導体製品をいの一番に使いこなしてくれる頼もしい存在でもあり、技術的にごまかしがきかない手ごわい顧客、市場で勝てるサービスを提供する上では強力なパートナーでした。他社、顧客でありながら、「分業」ではなく「統合」しているのです。

 「水平統合型」戦略は、企業経営だけではありません。私自身、大学に移ってからは、日本の半導体・ナノテクノロジーの開発において、材料からデバイス・回路システム・ソフトウエアを統合した研究開発体制を作り上げたいと考えています。つくば地区にはつくばイノベーションアリーナ(TIA)といって、産業技術総合研究所の300mmウエハーのクリーンルームを活用して、筑波大学・産業技術総合研究所などいくつかの組織で行っているナノテクノロジーの材料・デバイスの研究開発をつくばに統合する動きがあります。そこにさらに、私が専門とする材料やデバイスの特徴を生かし欠点を補う回路システムやソフトウエア技術を注入する。すなわち、新材料を使いこなして新しいアプリケーションを開拓する機能を加えることで、産・官・学の組織を統合し、材料からアプリケーションまでの全体の最適化を図り、世界的に競争力のある日本のナノテクノロジーの開発拠点を作り上げたいと考えています。既にReRAMやPCRAMといった新メモリの開発を行う国家プロジェクトでTIAを舞台に材料からシステムまでの最適化の研究を行っていますが、今回少なからず被災したつくばにおいて、「水平統合型」の日本の半導体技術を発信していくことで、復興の一助としたいと思っています。

 「垂直統合型」の戦略では、ヒト・モノ・カネの資源が分散して世界と戦うのに厳しい。けれど「水平分業型」に走りすぎると、サプライチェーンを構成する異なる階層の間の連携が軽視されがちになってしまいます。それぞれの事業に強みを持つもの同士が密接に連携し、複数の組織にまたがる「水平統合型」をいかに作り上げるか、が重要なのではないでしょうか。得意な分野で世界一を目指すとともに、トップレベル同士の連携による「水平統合型」の経営戦略が必要とされています。

 エンジニアの皆さん、個人レベルでも、自分一人で何でも身につけようと頑張るジェネラリスト「垂直統合型」、オンリーワンの技術を磨く一匹狼「水平分業型」、もよいのですが、一流の技術を磨いた者同士、相手の良さと自分の良さをうまく組み合わせて一緒によいものを生み出していこうとする狼のチーム「水平統合型」で頑張っていきましょう。