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 「復興に関して、実に多くの提案を頂きます」

 「しかし、ほとんどの提案が復興のごく一部に関する部分提案なのです」

 「例えば、メーカーでしたら、太陽光パネルといった、そのメーカーが手掛ける製品の提案にすぎないのです」

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図1

 「残念ながら、都市計画から農業、漁業、交通やスマートグリッドといった電力供給まで、復興に関する全てを網羅した提案が無いのです」

 震災から4カ月がたち、遅ればせながら、岩手県庁にご協力頂いて、岩手県沿岸部の被災地である大船渡市と陸前高田市を伺った時に、行政の方々からこのようなお話を伺いました。たった1日だけ被災地に行っただけで震災の復興を語るのはおこがましい限りですが、それでも、実際に被災地を目にして、現地の方々とお話しして、多くのことに気付かされました。

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図2

 被災地の現状は瓦礫の処理、幹線道路や港の船の航路の回復、仮設住宅の建築など、最低限の生活・産業基盤の復旧が進んでいるところです。しかし、現在でも、陸にも海にも壊れた家(図1)や、処分待ちの壊れた車や瓦礫の山(図2)が置かれています。また海岸線には地震により1メートル以上沈下して満潮時には水没してしまう危険な場所があります。海沿いの壊れた鉄道網の復旧や、破壊された町の復興もこれからです。

 復興に際しては、破壊された町や港、鉄道を以前のままに復旧させるのでしたら、従来の行政組織でも良いでしょう。しかし、今回の復興では、都市計画、農業、漁業、交通といった一般的な街づくりに加えて、今後起こりうる地震や津波、現在問題になっている放射能、再生可能エネルギーや送電システム等のエネルギー問題など、科学者の間でも見解が分かれる科学的・技術的な判断をしなければならないのです。また、日本は税収が50兆円程度にもかかわらず、900兆円を超える債務を抱えているわけですから、被災地といえども、産業振興などにより将来はお金を儲けられるような仕組み、ビジネスプランが必要でしょう。

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図3

 私は実際に被災地を見るまでは、全く知りませんでしたが、津波により一番大きな被害を受けたのは、便利な開けた平地だったようです。日本は海岸線の近くまで山が迫り、海沿いのわずかに開けた平地に人が住んでいたり、工場が作られています。陸前高田は高田松原という日本の渚百選にも選ばれるような美しい白浜を持つ小さな平野です。このような開けた平野にある建物が津波で壊されてしまいました。多くの建物が津波で海に流され、一面、更地になってしまい(図3)、その中に廃墟が点在する(図4)というのは、非常にショッキングな風景でした。景勝地として有名だった松林は一本だけになってしまいました(「奇跡の一本松」図5)。

 復興後は、海のそばの平地から津波が来ない山の上に住居を移すべきだ、という意見は正論ですが、一番便利な平野を市街地として使わないというのは、非常に難しい判断だと実感しました。極端な喩かもしれませんが、首都圏でいえば、住居や工場を関東平野の臨海地区から、多摩丘陵に移転するというようなことかもしれません。

 海岸線の交通網が破壊されたのに対して、山間部のバイパス道路は震災を逃れ、今では復興の重要な大動脈となっています。震災では役に立った山間部の道路は、経済合理性から考えると、建設に非常に高いコストが必要になりますので、平時には「土木行政の象徴で税金の無駄づかい」と言われてしまうこともあるようです。

 このように、復興に関して、考慮すべき分野が多岐にわたるうえに、政治的な判断も必要になりますと、全ての分野を熟知し、判断・決定できる専門家はいないでしょう。行政、企業、大学は専門領域が細分化されています。また、震災の復興に関しては、エネルギー政策が重要ですので、理系的な科学技術に関する知見が鍵になります。

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図4

 15-16世紀、ルネッサンス期にイタリアで活躍した、レオナルド・ダ・ヴィンチは万能の天才と呼ばれ、「最後の晩餐」「モナ・リザ」に代表される絵画だけでなく、解剖学、物理学、数学、天文学や土木学など、芸術から実践的な工学まで、多角的な才能があったと言われています。復興に際してもダ・ヴィンチが居てくれたら助かるのですが、それも難しい。凡人の私達でも、MOTを駆使して何とか復興につなげられないかと考えています。ただし、欧米のビジネススクールでも、これだけ広範な分野をカバーできるだけのMOTは教えていません。震災復興というのは、復興プランの作成から実行まで、MOTにとって新しい挑戦になります。

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図5

 復興案を作るには、文系出身の例えば行政や商社の人が技術を学んだり、逆に、技術がわかる理系出身者が行政や都市計画を学ぶ必要があります。いずれにせよ、素人がにわか仕込みの知識で復興案を作ることになるわけです。完璧とは言えないまでも、復興案を少しでも良いものにするためには、ダ・ヴィンチのように多くの分野の専門家にはなれない以上、各分野の多くの専門家の中から、信頼できる専門家を選び、専門家の知識を復興にフィードバックするしかないのです。そのために鍵になるMOTのスキルは、コミュニケーションの能力です。