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 アメリカの会社の執行役員の役職としては、経営全般の責任を負うCEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)、日常業務の遂行の責任を負うCOO(Chief Operating Officer、最高執行責任者)、財務の責任者であるCFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)、メーカー等の技術系企業の場合に技術の責任者であるCTO(Chief Technical Officer、最高技術責任者)といったものが一般的です。最近はそれに加えて、CCO(Chief Communication Officer)という聞きなれない役職が現れました。CCOとは、社外の顧客だけではなく、社内の研究開発、製造、営業、広報、財務、人事、経理といった様々な部署や、研究開発の部門内でも異なる分野の専門家と密接にコミュニケーションを取り、会社のビジョンや経営戦略を浸透させる役割を担っています。異分野の人達とコミュニケーションを取る責任者です。復興に必要なのは、まさにCCOではないでしょうか。

 企業でコミュニケーションが重要になっているひとつの理由は、技術が複雑化し、1つの製品は多様な技術の集合体となり、社外はもちろんのこと、社内でさえも専門家の間で意思疎通を円滑化することが困難になっているのです。異なる分野の専門家では、使う言葉さえ異なることが多いのですから。

 同じ会社の中でも異なる専門家の間で意思疎通が難しいのですから、それよりもはるかに分野が広範な復興事業でしたら、専門家の間のコミュニケーションを取るのは非常に難しいこととなるでしょう。これはMOTとしても新しい挑戦になる、と書きましたように、私も自信や確信があるわけではありません。少しでも自分が知らない分野を理解できるように努め、根気よく、異分野の専門家とコミュニケーションを取り、意見を集約していく。復興というのはそんな泥臭い地道な、人と人との係わりから生まれてくるのではないでしょうか。

 先日の岩手県庁への訪問では、東北地方の産業振興案として、かねてから提案している、SSDを使った低電力データセンタ事業を相談してきました。実際に被災地の方々と接している県や市の行政の方々とお話ししていると、自分が非常に視野が狭く、提案も専門的な内容に限られた部分的なもので、「このままの提案ではダメだ」と痛感しました。私の場合は、妻が行政にいて都市計画の専門家ですので、多少は都市計画について知っていますが、もう少し妻と議論して復興案を練ってから被災地に行けば良かったと反省しました。

 一方、大手の経営コンサルティング会社が被災地に駐在し、手弁当で復興計画を作ろうとしているという話も聞きました。企業再建などにかかわる経営コンサルティング会社は、経営から、営業、財務、研究開発など会社に関する幅広い分野を扱っています。しかし、その経営コンサルティング会社といえども、震災やエネルギー関連の技術にそう詳しいわけではないですし、普段の仕事ではここまで幅広い分野を扱うことはないと思います。彼らなりに、多くの専門家の話を聞き、専門家の意見を集約して復興案を作ろうとしているのでしょう。私も岩手県庁のアドバイザとして、自分が持ちうる専門知識だけでなく、様々な分野の知り合いの力を集結させ、少しでも復興に貢献できないかと考えています。

 ダ・ヴィンチのように全ての分野を完璧に理解するのは無理でも、復興にかかわる多くの人が、少しずつでも分野や領域を広げることができれば、全体として大きな力になると私は信じています。自分の専門に閉じこもるのではなく、「自分は専門外だから」と遠慮してしまう心理的な障壁や閉じこもった殻を少しずつでも、破っていく。

 例えば、私は太陽光発電の専門家ではありませんが、自分の専門である集積回路と太陽電池は似たような分野・素材ですから、全く畑違いの文系の行政の方に、太陽光発電のアドバイスを多少はできるでしょう。行政の方から見れば、「そのものズバリ」の専門家ではない私のような人間の意見だって、貴重なのです。

 「もう一歩前へ」で良いのです。専門家ではないから、間違えることもあるでしょう。多くの人の知恵を借りながら、まず一歩進む、そして間違っていればすぐに修正する、といった、多くの地道な取り組みが復興には必要ではないでしょうか。舗装された一直線のきれいな道ではなく、山あり谷ありのでこぼこの道、時には、けもの道に迷い込むこともあると思いますが、多くの試行錯誤の繰り返しが、最終的には震災の復興につながればと考えています。