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(4)レストランでの視点

 それぞれの視座には、それぞれの価値観がありますが、その中で注目している箇所があります。例えば、お客様には「満足感」の要素として「店の雰囲気」「料理の品質」「価格」「待ち時間」などがあります。そして「店の雰囲気」のさらに詳細な要素として、「店員の接客態度」「調度品」「店内の静かさ」「店の明るさ」などがあります。一方、店員には「お客さんに対する態度」「お客さんの満足度」「食材の品質」「給料」などがあり、店長には「お客さんの満足度」「コスト」「売り上げ」「継続来店率」などがあります。これらの関心事や注目点といったものが、私たちの言う「視点」なのです。

 お客様の「満足感」、つまり「顧客満足度」(カスタマー・サティスファクション)と、店員や店長の「満足感」、つまり「従業員満足度」(エンプロイ・サティスファクション)は、満足度という言葉的には同じでも大きく異なります。お客様は払う金額相当の、あるいは、それ以上の満足感を得たいと思い、店員たちは「お客様にクレームをつけられないようにする」という負の期待も含んでいるでしょう。また店長は、店員の接客態度やモチベーションを上げるコストと、その結果、継続的顧客になってもらうこととの効果のバランスを考えます。このように、同じ視点でも、視座によって、その背景にある価値観が大きく異なる場合もあります。また、同じ視座でも、レストランに対する満足度のように、時・場所・目的によって価値観が変わることもあります。

(5)視座力、視点力、価値観力が働く場

 新規開店や店の改装をする時には、どのような客層をターゲットにするのかを決める必要があります。そのために性別や年齢層、所得層、来店の時間帯、来店人数、来店頻度、好み、交通手段などのデータから客層を考えますが、結局、それらのデータを通して、どのような価値観を持った客層をターゲット対象にするのかを考えています。すなわち、店の雰囲気や料理の好み、支払い可能な価格帯などが、性別や年齢層、好みなどによって、ある程度の幅で共通しているからです。

 また、レストラン内で、継続的来店顧客を増やす方法について話し合う場があったと想定しましょう。接客担当はお客様に対し、店員のもっと余裕を持った対応がお客様の満足度を上げることにつながるから、店員の増員を提案することも考えられます。また、厨房担当は、店の品格をより高めるために、食材の生産地を指定したり、上質の食材を使ったりすることを提案するかもしれません。しかし、店長はそれらはコストアップになり、料理の価格に反映しなければならず、結果としてお客様が減ることになるのではないかと危惧します。

 こうした状態のままでは、噛み合わない議論を続けることになることでしょう。ここでは、店長は接客担当がどのようなことに困っているのか、何に限界を感じているのかを理解する努力が必要になります。また、生産地の食材の品質や価格についての情報を入れてくれるよう、厨房担当や仕入れ先に依頼するべきでしょう。一方、店員たちも、店長の考えや店の経営状況をよく聞いて、自分たちができることを考えることが必要でしょう。

 このような相互の歩み寄りによって、妥当な結論が出されるはずです。この歩み寄りの姿勢が働いているときは、互いの立場(=視座)と互いの考え方(=価値観)を理解しようとしているのです。意見交換の場や問題解決の場では、相互の視座、視点、価値観を出し合い、話し合い、理解することがよい結果につながるのです。経営に関する情報を共有化し、さらにどのようにすればうまくいくか検討して出された対策案の実施に向けて、相互に共感することが重要なのです。

 続いて、厨房設備を開発する企業の営業と開発技術者が、このレストランに新しい厨房機器システムを提案する場合を想定してみましょう。まず、営業や開発の担当者は店長や店員から経営方針や現状でのやり方、問題点や望ましい姿などを聞き出します。場合によっては常連客に対して聞き取り調査をするかもしれません。そうした作業を通じて、開発技術者は収集分析した情報からそのレストランにとって「最も望ましい厨房機器のシステム」を考え出し、具体的に提案しなければなりません。

 このとき、おそらく店長や接客担当、厨房担当から同じことに対して別の意見が出ると思います。それをその言葉のまま理解しようとすると混乱します。結果として権限のある店長の意見に引きずられ、理想は高いが使いづらい厨房機器システムが出来上がりかねません。ここでは、店長や店員、その他の関係者の視座と価値観をよく聞き出し、それぞれの意見を正しく理解し、他の客先での経験から得て来た豊富な視点でもって、新しい厨房機器システムを考え出す必要があります。

(6)おわりに

 このような、いわゆる意見交換の場や問題解決の場、新しいアイデアを出す場で、最適な結果を得るためには、いろいろな視座があることに配慮し、豊富な経験的視点をベースにして、それぞれの視座と視点、価値観を理解し合うことが重要です。また、物事を正確に把握するためにも、それに関わる視座、視点、価値観を意識し、理解し、それに基づいて判断することが不可欠です。視座、視点、価値観を仕事の場で活用できることが、まさに仕事の能力、つまり仕事力の重要な要素なのです。

 このように、厨房機器システムの構築に限らず、人と接しながら物事を知的に判断し、行動できるようになるために、私たちが主張する「視座力、視点力、価値観力」を身に付ける必要があるのです。