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エネルギー供給の責任は誰が持つのか

 これまで見てきたように、世界のエネルギー事情は今、大きく変わり始めている。そういった中で、福島第一原子力発電所の事故が起き、「エネルギー供給の責任は誰が持つのか」という課題が浮き彫りになった。

 何かトラブルがあれば、誰かが責任を負わなければならない。仮に東電が全面的に損害賠償に応じるとしても、そもそも原子力発電は国策として推進されてきたことである。東電は国の方針にしたがってきたに過ぎない。もし東京電力が潰れるようなことがあれば、国が最終責任を負うことになる。エネルギーの供給が止まったからといって、東電1社を責めて済む話ではないのだ。

 今後、エネルギーだけでなく、通信、水や一部の食料などについても、「国が責任を持つ」という流れが出てくるはずだ。いままでなぜ「自由化」だったか。それは日本が平和だったからだろう。お金を出せば、当たり前のようにエネルギーが手に入ったのである。通信環境や水などもそう。でも、これから先も同じように手に入るといえるだろうか。

 今、中国では夏場のエネルギー需要が激しい勢いで上がっている。震災でもないのに、夏場の計画停電が当たり前のようになっていると聞く。今後さらに悪化するだろう。日本にいる私たちだけは例外で、お金さえ出せば欲しいだけ手に入ると思っているわけにはいかない。そうなると、「誰が責任を持つか」「誰が管理をするか」という話が必ず出てくる。「国が責任を持つべき」という議論が生まれてくるのは必然だろう。

「エネルギー・サービス産業」へ

 筆者は、電力の安定供給は今後、非常に公共性の強い事業(パブリックドメイン)になっていくと予測している。実質的に東電を公営に近いかたちに変えていくべきという議論はすでに出ている。原子力や水力など、非常に難しいものも含めて、管理機能は電力の中核会社が持つべきという流れになるだろう。

 発電を担う部分については、いろいろな会社が出てくるはず。発電事業には大きな投資が必要になるが、その一方で、電気料金という、間違いなく将来的にもなくならないキャッシュフローが得られる。これから太陽光発電の固定価格買い取り制度が確立されれば、投資によって10%程度、悪くても5%くらいのリターンが、しかも政府の保証で得られるようになる。このような金融商品化は、ヨーロッパで実際に行われたことである。エネルギーの発電は、間違いなく大きな投資分野に成長するだろう。国策としても推進され、そこに金融が入ってくる。発電事業者は加速度的に増加すると予測している。

 家庭向けとしては、太陽光パネルとスマートメーター、蓄電池を組み合わせたシステムが、家単位で普及していくだろう。筆者は、家庭用太陽光発電のキラー・アプリケーションは電気自動車になると予測している。現状では、太陽光発電システムを導入した場合、平均すると約10年で元が取れる。けれども一般的な感覚では、毎月の電気代が安くなる程度では、なかなか100万円単位の投資には踏み切れない。けれど、「自動車の燃料代もほぼ無料」になるということになれば、かなり説得力が出てくる。

 太陽光パネルで発電される電気も、電気自動車で使われる電気も、それぞれ「直流」である。直流―直流で充電できるため、変換ロスなく効率よく電気を使うことができる。さらに余剰分をLiイオン2次電池などの蓄電池に貯めておけば、これも直流なので、家庭にガソリンタンクを持っている感覚で充電することが可能になるだろう。

 このようなシステムは、電力会社にとってもメリットが大きい。太陽光発電だけでは、晴れた日には各家庭から余剰電力が系統に一斉に流れ込み、電力システム全体が不安定になりかねない。各家庭に電気自動車や蓄電池があれば、これらがバッファーとなり、大量の電力が一度に流入する状況を緩和することができる。

 太陽光システムと電気自動車、さらに蓄電池やこれらをコントロールするためのスマートメーターまでを「システム」として普及させるためには、業界を超えた協力が必要だ。このようなシステムが確立できれば、日本の「総合力」を具現化する商品として、海外展開も大いに期待できる。こういったことができるのは、世界の中でもごく限られた国だけなのだから。

田中 栄 (たなか さかえ)
アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
1990年、早稲田大学政治経済学部卒業。同年CSK入社、社長室所属。CSKグループ会長・故・大川功氏の下で事業計画の策定、業績評価など、実践的な経営管理を学ぶ。1993年マイクロソフト入社。WordおよびOfficeのマーケティング戦略を担当。1998年ビジネスプランナーとして日本法人の事業計画立案を統括。2002年12月に同社を退社後、2003年2月アクアビットを設立し、代表取締役に就任。主な著書「未来予測レポート2011-2025(全産業編)」「未来予測レポート エレクトロニクス産業 2011-2025」「未来予測レポート 自動車産業 2011-2025」「未来予測レポート エネルギー産業 2011-2025」「未来予測レポート2008-2020食の未来編」(日経BP社)など。北海道札幌市出身、1966年生まれ。