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 8月18日にPCシェア世界最大手の米Hewlett-Packard(HP)社がPC事業の分離計画を公表、EMS/ODM業界に激震が走ってから1カ月が過ぎた。この間、HPのエグゼクティブ・バイス・プレジデントで、パーソナル・システム・グループ(PSG)トップを務めるTodd Bradley氏は8月末から9月初旬にかけて、同社にとっては米国と並ぶ巨大市場であり生産工場でもある中国と、同社のPC生産を請け負うEMS/ODMメーカーが集結する台湾を訪問。とりわけHPの進出を柱に地元政府がノートPC生産基地の建設を決めた重慶に対する投資計画については、PC事業の分離後も変更がないことを強調し、不安の解消に努めた。

 重慶がノートPC産業の新たな世界拠点となりつつあることについては、当コラムで「上海はもう古い! 若者もEMSも四川を目指す」「ノートPC受託生産と「ニワトリのろっ骨」の関係」と題して伝えてきたため詳しいことはそちらに譲るが、重慶に生産拠点の設立を決めた9社(ブランドメーカー3社、EMS/ODMメーカー6社)のうちHPを除く8社は台湾系企業だ。HPがPC部門を売却した場合、その相手が自社生産を行うメーカーであれば、重慶生産分だけで最大年間4000万台の受注が台湾系企業から流出する恐れがあるとの試算が出ている。

 今回のHPの件に対して、台湾系EMS/ODM各社はこれまでのところ、まるで嵐の前の静けさのように、沈黙を決め込んでいる。しかし、HPからの受注を見込んで進出を決めた側面のあるFoxconn(フォックスコン=鴻海)社、Quanta Computer社、Inventec社については、「HPにはしごを外されたとの思いがあって当然」(台湾系EMSの上海駐在員)と指摘する向きもある。

 はしごを外されたのかもしれないとの思いは、HPを誘致した重慶市政府にもあるようだ。

 台湾の複数のメディアの報道によると、副市長時代の2006年に自らHPに重慶進出を働き掛けたという黄奇帆市長は8月末、「HPの件で、同社から直接受注しているEMS/ODM企業はもちろん、多少の影響を受けるだろう。ただ、世界中のノートPC受託生産の9割までを、台湾系メーカーが握っているのだ。受託生産の大きな環境に与える影響は軽微だ。台湾メーカーは過度に心配する必要はない」と強調。しかし一方で「エレクトロニクス産業においてハードとソフトはどちらも欠かせないものだ。ハード主体だったHPが10年をかけてクラウドやシステムサービスに注力してきたことについては正しい選択だ。しかし万一、ハードウェア事業を捨てるというならば、それは賢いことだとは言えない」と、懸念とも非難とも牽制ともつかないコメントをしたという。

タイトル
上海虹口区の建設現場で働く農民工(出稼ぎ労働者)の人々。上海の農民工は地理的に近いため安徽省出身者が多い

 ところで当のHPはというと、その重慶で9月から、「1元」(約12円)で農村にPCを普及させるという「1元電脳万人計画」を、重慶市当局とともに始めている。

 当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)でも「『メード・イン重慶』ノートPC購入で農村対象に優遇策 HPは『本体1元』で投げ売り? 台湾紙報道」として伝えたが、重慶市は2011年8月中旬、中国の農村を対象としたノートPC購入の優遇策の一環として、農村に居住する消費者が重慶で生産したNBを購入する際に補助金を出すことを決定。3年間で500万の農村家庭に「メード・イン重慶」のノートPCを普及させるという目標を立てた。HPのほか重慶に生産拠点を置く台湾Acer社と台湾ASUSTeK社、さらに中国の電気通信キャリアChina Unicom社、China Telecom社が同計画への参加を表明している。

 HPはChina Unicomと組んで、通信料込みのChina Unicomの3Gネットカードを買うと、HPのノートPCを1元(約12円)で提供するというサービスを始めた。料金設定は3種類に分かれており、2880元のプランにはネットブックのMini110、3600元プランには学生向けモデルのCQ43、4800元プランには中級モデルのPavilion g4シリーズを提供している。

 重慶の地元紙によると、HPがこの「1元電脳万人計画」についてChina Unicom重慶支社と契約を交わしたのは、HPがPC部門の分離検討を表明する2日前の8月16日。その後、予定通り9月3日から実際の販売をスタートし、HPではこのプランにより向こう1年間で6万~10万台の販売を目標にしているという。ただ台湾メディアによると市場や業界では、PC事業の取りやめに向けてHPが、在庫処分の一環として1元プランに参加したのではないかとの観測もあるという。

 ただ、債務問題の影響で欧米経済が低迷する中、HP以外のPCメーカーも、中国農村市場に期待しているのは事実だ。中国系のレノボ(聯想=Lenovo)は2010年、11年と独自の販促キャンペーンを張った成果が徐々に現れ始めているという。また、欧米での販売不振で深刻な損失に陥っているAcerについて市場や業界では、中国の農村で積極策を打つことで初めて、欧米市場の損失を挽回できるという声が上がっている。