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 中国でビジネスをする際、日本では当たり前の営業トークなのだが、言うとうまくいかなくなる一言というのがあるようだ。これは私が体験した実話で、その場合、それは「どのような製品にいたしましょうか、お客様の好みや状況はどのようなものですか」というものだった。

 こう尋ねるのは、顧客志向の日本企業にとっては普通のこと。相手の要件がしっかり決まらないと受注どころか見積もできない機械メーカやエンジニアリングメーカからすれば、当たり前の質問である。

 しかし、こう聞かれると中国企業の担当者はきっとこう返すだろう。「まず、一番小さいのを持ってきてください。試してみますから。なんなら中ぐらいのものでも。とにかく、何でもいいので早く持ってきてください」すると日本企業はこう答える。「お客様、当社には様々な種類の機械がありまして、お客様の用途に応じて見積をさせていただいております。用途や仕様を決めていただけないと製品をご提供することが難しいのですが」

 そこで中国企業は本音を漏らし始める。「何も決まっていないし、こちらも詳しくは分からないのです。だから製品を提供してください。すぐ検討しますから。できたら無償で貸し出しをしてもらえませんか」そう言われた日本企業は不信感を募らせる。「この客は買う気がないな。ひょっとすると、借りてタダでコピーする気かも。なるほど、これが中国のやり方か」

 そうは露骨に言えないので、とりあえずこう答えておく。「日本に持ち帰って本社と検討してきます」それを最後に、日本側からの連絡はなくなる。

 1週間くらい経つと、中国企業から催促が来る。「ずっとお待ちしているのですが。検討はしていただけましたか」けれども、日本側ははかばかしい返事をしない。さらに2週間経過したころ、中国側から次の連絡が入る。「別の会社からとりあえず1台、1億円で機械を購入しました。これから、全社で20台をその会社から調達することも決めました。本当は、御社の機械が一番良いと考えていたのですが、売っていただけないものと思いまして、諦めて他社のものにしました」

 そこで「本当に買う気があったのか」と気づいてもあとの祭り。この中国企業は最初から買う気満々、やる気満々だったのだ。しかし日本企業はどうも相手が中国企業だと、不必要な腹の探り合いをしたり、最初から相手を疑う姿勢をみせたりしてしまいがちだ。それが中国企業の買う気を失わせてしまう。

 日本企業が仕様を基本とする完全個別受注型のビジネスに慣れ過ぎてしまっているということもあるのかもしれない。本社に間違った見積を出さないよう慎重になり過ぎるあまり、「相手に売る」という一番大切なことがおろそかになってしまう。同じような過ちが、中国企業を相手にする商談では何度ともなく繰り返されていると聞く。

 そもそも仕様を固めようという姿勢が間違っていたりする。それを聞き出そうにも、相手には応えるだけの専門知識も経験もなかったりするからだ。中国には、日本企業も脱帽する、極めて高い技術と開発能力を備えた企業がいくつもある。その一方で、R&Dの機能をまったく備えず、その分野でビジネスをしていながら「エンジニアリングとは何ぞや」ということをほとんど理解していない企業も数多くあるのだ。大手中国企業でも「図面から加工はできても仕様から図面は起こせない」という企業はザラにある。

 最近、北京と上海間を結ぶ中国新幹線の話題に注目が集まっている。中国が新幹線の特許をアメリカで特許申請するとのこと。しかし、私は知っている。自国のエンジニアリングをもっとも信用していないのは中国人自身だったりすることを。

 以前、私が「日本人一番乗りで北京・上海新幹線に乗車したい」と言ったら、本気で中国人パートナーに止められた。「何と愚かなこと、今、あなたに死なれたら困ります」と。「車両は海外の技術を使っていたとしても、中国人が作った線路を走るのですよ。危ないではないですか。私は半年間、絶対乗りません」とのこと。それぐらい自国のエンジニアリングに関しては、信頼していなかったりするのだ。だから私ごときが、中国の2つの有力大学で設計開発等の担当教官をやっていられるのかもしれないが。

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