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 DRAMや液晶パネルも「イノベーションのジレンマ」の例外ではないでしょう。もし、コモディティー市場での厳しいコスト競争を避けていたら、事業の将来はあるのでしょうか。パソコンなどコモディティー市場での厳しい価格競争に鍛えられ、高いコスト競争力をつけた企業が、やがては技術力を向上させて製品の品質を上げてくる。そして、スマートフォン向けなど、現在では高付加価値と考えられている市場に、低価格を武器に襲いかかって来るのではないでしょうか。

 もちろん、赤字を垂れ流し続けながら、消耗戦に耐えよ、というわけではありません。コストが重視される消耗戦でも生き残れるような事業戦略は必要です。例えば、Samsungのように、巨額な投資を果敢に行うことで量産効果を高め、コストを削減する。フラッシュ・メモリを製造する東芝のように、フラッシュ・メモリとメモリを制御するコントローラの両方を開発することで、メモリ・システム全体の最適化をはかり、性能や信頼性で差異化を図る。あるいは、エルピーダメモリのように、より経営環境が良好な外国に製造拠点を移すことで、製造コストを削減する。

 半導体メモリ業界では、東芝が次世代メモリであるMRAM(磁性体メモリ)を韓国Hynixと共同で開発するという発表がありました。注目すべきは、共同開発の拠点は日本ではなく、韓国であること。そして、開発が成功した暁には、韓国の工場での生産も視野に入れているとのことです。従来の東芝は、フラッシュ・メモリの製造を日本に集中させてきました。MRAMの開発と製造に関しては、技術的な問題などもあるとは思いますが、エルピーダメモリと同様に、東芝も日本での製造だけに拘っていられなくなってきたのではないでしょうか。

 今後、生産が海外に移転するのは、時代の趨勢で、避けられないのかもしれません。日本人のエンジニアは、同じ会社に属する海外の生産拠点のエンジニアと、生き残りを賭けて競う状況になるかもしれません。海外の製造現場に居るエンジニアには、工場から生の技術情報が入りますので、日本の会社といえども、日本人のエンジニアはアウェーの戦いを強いられるかもしれません。

 また、アジアでは人件費は安いので、海外のエンジニアに比べて給料の高い日本人のエンジニアは、より高いレベルの貢献が必要とされるでしょう。

 コモディティーの製品といえども、半導体製品はナノスケールに微細化されると、従来のように単純に小さく加工するだけでは、所望の性能を達成できなくなったり、電力の増加や信頼性の劣化といった問題を引き起こします。価格が最重要視される汎用品でも、高度な回路技術やシステム技術が必要とされてきているのです。

 そういった、より高度な技術を武器に、日本人のエンジニアは、生き残りを図る。例えば、DRAMであったら、超高速のインタフェース回路や位相同期回路のようなアナログ回路。フラッシュ・メモリを記憶媒体とするSSDでは、メモリの誤りを訂正する誤り訂正回路(ECC)や、書き換え回数を平準化するコントローラのアルゴリズムや、キャッシュ・メモリのアーキテクチャなどでしょう。

 思い起こすと、「護送船団方式」と揶揄されてきたように、国家行政に守られてきた日本の金融業界にも、2000年代前半に金融自由化の波が押し寄せました。そして、金融機関で働く日本人にはグローバル競争で勝ち残るための、自己変革が求められました。リーマン・ブラザーズのアジア・欧州部門を買収した野村証券などでは、国内、海外の社員の間で熾烈な競争があるのではないでしょうか。

 金融業界とは異なり、製造業は以前から厳しいグローバル競争に晒されてきました。その結果、日本のエンジニアには、海外のエンジニアに決して引けを取らない高い技術力があると思います。その優位をより一層推し進めて、エンジニア個人としても生き残りを図る。時代の変化に柔軟に対応する、しなやかな立ち居振る舞いが日本のエンジニアにも求められてくるのではないでしょうか。