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 少し前になりますが、ある金属部品加工業者を取材した時のことです。「今後は、ある程度の数を量産する技術を身に付けていきたい」と、そのメーカーの社長が今後の展望を語ってくれました。この会社は、非常に高精度な加工を得意としており、そのレベルは切削加工で鏡面を実現できるほど。しかし、「ずば抜けた精度の1品を加工する技術と、それをコンスタントに連続して加工する技術は別」と、その方は言います。

 もちろん、1品ものを受注したときのように、時間をかけて丁寧に加工し、計測で確認し、場合によっては加工をやり直すというプロセスを経れば、高精度な部品を何個でも造れるでしょう。しかし、そのような方法で100個とか1000個の同じ部品を加工していては、量産部品で求められる時間とコストのニーズを満たすことはできません。

 ある程度の精度を保ちながら、多数の部品を繰り返し加工するという量産技術を持っている企業が、その「ある程度の精度」のレベルを高めていくことに取り組んでいるとすれば、冒頭の金属部品加工業者が取り組もうとしているのはその逆。つまり、既にレベルが高い精度の加工を、いかに短時間かつ低コストで実現するかに挑戦しているといえます。

 精度などの品質とコストは基本的に、トレードオフの関係にあります。それらを、いかに高い位置でバランスさせるかが、企業の競争力向上へとつながります。10の品質を10のコストで実現できる企業よりも、10の品質を5にコストで実現できる企業や20の品質を10のコストで実現できる企業の方が競争力が高いといえるでしょう。

 では、10の品質を10のコストで実現できるA社と、5の品質を5のコストで実現できるB社ではどちらの競争力が高いのでしょうか。もちろん、これは一概には言えません。市場が10の品質を求めているならばB社は競争相手にはなりません。しかし、市場のニーズが5の品質であった場合、A社がその品質をどれだけのコストで提供できるかが勝負の分かれ目になってきます。単純に、5の品質を5のコストで実現できるとは限らないからです。

 品質とコストは、単純な比例関係になることはなかなかありません。部分的には比例したとしても、ある品質以下ではコストがほぼ一定になるライン、つまりコストの下限があることが多いでしょう。例えば、NC工作機械を使えば、ある程度の精度を出すことはそれほど難しくはないのです。

 日本メーカーが海外、特に新興国のメーカーと競争するためには、品質とコストのバランスをどう実現するかが今後、ますます重要になってきます。単に低コスト化を図るだけでなく、単に高品質を追求するだけでなく――。新興国市場における要求品質が高まっていくことも十分に考えられます。そうなったとしても対応できる力、つまり市場が求める品質を妥当なコストで提供できる柔軟な能力を持つことが大切ではないでしょうか。