PR

 私が大学を卒業した20年前に国内エレクトロニクス業界で花形産業だったDRAM事業はエルピーダメモリの一社だけになり、パソコン事業や携帯電話事業は風前の灯です。他業種を見ても、親方日の丸と言われ、規制などで保護されていた銀行や証券会社も淘汰が進みました。夢の技術と言われた、バイオテクノロジーは産業としては未だに夢のまま。その一方、インターネットの誕生とともに、GoogleやAmazonに代表されるような、インターネット技術を基軸とする様々な企業が生まれてきました。

 結局、50年先どころか、20年先も予測できません。大学を卒業した時点で、一生を見通せるキャリア、技術を見つけることは難しいのです。将来を予測できないのであれば、私たちにとって一番大事なのは、技術的スキルだけでなく、環境が変わっても生き残っていける適応力や精神力を身につけることではないでしょうか。

 そのためには、できるだけ若い頃から、競争が激しく、変化が多い業界で鍛えられていた方が良いと思います。保護された安全な環境に10年、20年と居ますと、その間は楽できて良いように見えますが、生存力が養われない。40才を過ぎてからいきなり、厳しい環境に放りこまれたら、それはもう厳しい。動物園で生活している動物が弱肉強食のサバンナに放されたら、生き残るのが難しいことと同じです。

 参考になるかもしれないのが、農業の自由化の歴史。現在、平成の開国と言われるTPPの交渉に日本が入ることに対して、賛成派・反対派に分かれて、大論争になっています。TPPに加盟すると予想される国々が、米国、オーストラリアなど、日本が農産物を輸入する国が多いことから、日本の農業への打撃を懸念して、JAなどがTPPの交渉参加に反対しています。

 価格面で国際競争力がないといわれる農業でも、たとえばサクランボは高級品への転換で、自由化を生き残りました。アメリカのチェリーの輸入自由化の時には、日本のサクランボは壊滅的な打撃を受けると言われていました。しかし、実際には国産サクランボは高級品への差異化戦略を取り、輸入自由化以降に生産額は大幅に拡大したそうです。

 TPPの議論を見ていると、法律や関税で守られているというのは、個人がサバイブするための能力を鍛える機会を奪われていて、非常に危険だと感じています。今回のTPPがどうなるにせよ、グローバル化が進んだ現代では、今後何十年も国策で保護を受けることは難しいでしょう。それならば、厳しい世界に徐々に出て行き、自らを鍛えられる道を選んだ方が良いのではないでしょうか。

 一般化は難しい事柄ではありますが、様々な困難に見舞われたエンジニアは、大変だけれども、その分だけ一回り大きくなれる。ずっと後から振り返れば、会社のスキャンダルや事業転換に伴う苦労というのも、ひょっとすると、自分が成長するチャンスなのかもしれません。エンジニアの皆さんも、優れた技術力を磨いていけさえすれば、組織がどうであれ、個人として逞しく生き残っていけると私は信じています。