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 韓国の大学は医療機器向けの半導体に関して、ISSCCで多くの発表を行っています。発表される技術は、医療分野の専門の特殊な技術というのはさほど多くありません。パソコンや携帯電話、センサネット端末などで既に使われている技術を医療機器に転用し、うまく組み合わせたといったものが多いのです。

 口が悪い人は、「秋葉原で売っているパーツを組み合わせただけ」などと言いますが、さほど高性能が要求されない医療機器の分野では「パーツの組み合わせ方の妙」でも良いのかもしれません。

 また、時代が変わると、微細加工技術の進化や素子のばらつきやノイズの増加により、集積回路をデザインするための「ゲームのルール」が変わることがあります。パソコンや携帯電話のメインメモリとして使われているDRAMは、1970年代初頭にIntelによって発明されました。初期のDRAMは大容量化に向いたオーブン・ビット線方式を採用していました。

 1990年代には、増大するノイズを減らすため、日立が提案したフォールディッド・ビット線方式が世界の標準的な技術になりました。その後、多層配線といったプロセス技術の導入やメモリセルアレイの分割によりノイズが低減され、2010年以降には20年以上も前の技術であるオープン・ビット線方式に戻ったのです。

 技術そのものは大昔のものに戻っただけですので、イノベーションとは言えないかもしれません。しかし、20年間続けてきた技術を否定し、かつて捨てた技術に戻るという決断は簡単ではありません。「温故知新」で古い技術も偏見なく正当に評価する。そして、かつて捨てた技術を再び採用するという技術の判断は、一見地味ですが、重要なリノベーションではないでしょうか。

 大学がリノベーションを行うためには、実際に企業で何を問題としているのか、最前線の技術動向や市場の要求を理解することが必要になります。日本でも産学連携の強化と言われて久しいです。

 「今の技術はこうなっているんだ」「今こういう問題で困っているんだ」「今の市場ではこういう技術が必要とされているんだ」という製造の現場や市場の生の情報がなければ、大学からリノベーションを行うことはなかなか難しい。

 一方、大学にとっては、技術の斬新さを追求するだけではなく、「実際に産業界が使える技術を研究開発する」といった、より実用を志向した姿勢が必要になるでしょう。大学は独立した機関とはいえ、国家の財政がひっ迫した現在では、大学が「好きなことを自由に研究する」ということは難しくなってきています。

「産業界が世界で存在感を示して売上を上げ」

「産業界が売り上げの一部を税金として国に納め」

「国が税金の一部を研究資金として大学に投資し」

「提供された貴重な資金を使って大学が研究を進め」

「大学の研究成果が産業界の競争力の強化に貢献する」

というサイクルが回り続けない限り、産業界も大学も共倒れになってしまいます。

 先日、産学連携を進める方々と韓国の強さについてお話をしていて気付いたのは、以上で書いたような韓国のリノベーションは、実は日本が高度成長期にやってきたこと。日本のかつてのお家芸ではないか。

 長い目で見て、人類に大きな貢献をするノーベル賞のような満塁ホームランを狙う研究はもちろん重要です。その一方、コツコツとリノベーションを積み上げ、産業界に貢献するような研究も重要。リノベーションの重要性を、日本ももう一度思い出した方が良いのではないかとISSCCの動向を見て考えさせられました。

 リノベーションはかつて日本が得意としたやり方ですから、再び行うことはそう難しいことではないでしょう。韓国などのアジアの国々の台頭を過剰に恐れたり、「日本はダメだ」と卑屈になる必要はありません。

 ISSCCの論文発表を見ても、日本は数で韓国に逆転されましたが、論文の質は高く、画期的なイノベーションを興せる力はあります。それに加えて、韓国や台湾の強みであるリノベーションを真摯に学ぶことで、日本は更に強くなれるのではないでしょうか。