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 さて、一方のFoxconn Internationalだが、11月30日に董事長の辞任を発表した陳偉良氏は、2000年代前半の携帯電話市場で隆盛を誇っていたフィンランドNokia社の受注をフォックスコングループにもたらした男として、エレクトロニクス業界はもとより香港市場でも一躍名を馳せた人物だ。

 それだけの功績を残した陳氏がなぜ今回、唐突とも思える辞任となったのか。Foxconn Internationalが発表した公示では、「より多くの時間を家族と過ごすための個人的理由」と説明している。これに対して、当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)では「フォックスコン傘下の携帯メーカー、トップが退任 スマホへの移行で苦戦」と題して詳しく伝えたのだが、スマートフォンへの移行で成果を上げることができなかった責任を取る意味合いが強いとの見方が中華圏の市場や業界ではなされている。

  そのうちの一つ、中国紙『第一財経日報』が伝えたある供給チェーンは、「近年、スマートフォンへの転換で苦しむNokiaが業績を落とす一方、Foxconn International自身も新規顧客の開拓で苦戦し、過去2年は損失の状態だった」と指摘。その上で、「陳氏の退任は、Foxconn Internationalが苦境を抜け出すには、単純な組み立て中心から研究・開発(R&D)に重点を置くモデルチェンジと、それを指揮する新たなリーダーが必要だとフォックスコンが判断した証だ」との見方を示した。

 スマートフォンの代名詞とも言える米Apple社の「iPhone」の生産は、フォックスコンがほぼ独占している。しかし、同じフォックスコンでも、Foxconn Internationalは、iPhoneをはじめとするApple社の製品を一切、手がけていない。当コラムでもかつて、「モトローラ,お前もか」と題した回で取り上げたのだが、iPhoneを担当しているのはフォックスコンの中でもiDPBG事業群(integrated Digital Paoduct Business Group)と呼ばれる部署であり、Foxconn Internationalの主要顧客はNokiaのほか、先日合弁解消を発表した日スウェーデンのSony Ericsson社、米Motorola Mobility社の3社。そしていずれも従来型携帯電話が中心だったと見られている。

 台湾誌『商業週刊』などの報道をまとめると、香港に生まれ幼少時に米国に移住した陳偉良氏は2000年7月、旧知の郭台銘董事長の誘いを受ける形でフォックスコングループに入社した。フォックスコンがゲーム機の受注を初めて獲得したのは米Atari社からだそうだが、その契約の調印にフォックスコン側から臨んだのは郭氏、一方のAtari側の代表は、当時同社に在籍していた陳氏だったのだという。

タイトル
上海一の繁華街・南京東路の歩行者天国にあるNokiaショップ。店頭看板でイチ押ししている「N9」は、Nokiaの「MeeGo」OS、カールツァイスの800画素レンズ等を搭載。価格は3999元(約4万9000円)

 フォックスコンの北米子会社社長を経て調達部長を任された陳氏は、Nokiaからの受注に狙いを定める。王者Nokiaの受注をどの受託生産業者ものどから手が出るほど欲しがっていたが、技術流出を恐れたNokiaは、一部を自国フィンランドのEimo Oyj社に委託していた以外、大部分は自製していた。こうした状況下、陳氏はフィンランドに居を移し、1年半にわたってノキア高層との交流を深めることで信頼を勝ち取る。そして2003年、Nokiaの出荷全体の3割に当たる生産の受注に成功する。その後、陳氏の働きかけで、NokiaはEimo Oyjをフォックスコンが買収することに同意。さらにフォックスコンはNokiaの受注を半ば担保にする形で、Motorolaのメキシコ工場を買収する。

 多大な功績を認められた陳氏は2005年、携帯電話ODM企業として香港に上場したFoxconn Internationalの董事長に就任した。年収も前年の150万香港ドルから1200万香港ドル(当時のレートで1香港ドル=約14円)に跳ね上がり、さらにフォックスコン株240万株(5億NTドル相当=当時)を得た。フォックスコングループの携帯電話事業の躍進に貢献し財を成した陳氏を香港や中国のメディアは「わずか2年足らずで『ミニフォックスコン』を造り上げた男」として称賛した。

 それから5年。スマートフォンへの移行で出遅れたノキアの影響を受ける形で、Foxconn Internationalは2010年を機に業績が低迷。2011年上半期業績は、営業収益が前年同期比7.28%減の29億9400万米ドルで、1800万米ドルの純損失となった。赤字は前年同期の1億4300万米ドルから大幅に縮小したものの、成長軌道を回復するには至っていない。

 Nokiaは10月末、米Microsoft社のスマートフォン用OS「Windows Phone Mango」を搭載した「Lumia 800」を発表。携帯電話用キーボードのSilitech(閎暉)社、Ichia(毅嘉)社、送受話器のMerry(美律)社など台湾系サプライチェーンは、2011年11月の営業収益でいずれも単月の過去最高や今年の最高を記録、Lumia800の出荷が好調なことを裏付けている。

 ただ、Lumiaシリーズの生産は、台湾系のCompal Communications(華宝)社が受注。陳氏は、かつて自身の名を一躍世に知らしめたNokiaから、スマートフォンの受注を勝ち取ることができなかった。Lumia800の投入によりスマートフォンで反攻に出る足がかりをつかんだように見えるNokiaの姿を陳氏は今、どのような思いで見ているのだろうか。

■変更履歴
掲載当初、最後の段落でLumiaシリーズの生産を「ARIMA Communications(華冠通訊)社」が受注したと表記していましたが正しくは「Compal Communications(華宝)社」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。