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 「日本は、『ものづくり』より、もっと上流で勝負しなければなりません。それは、ビジネスのコンセプトやモデルをデザインすることです。そのためには、アーキテクチャを考えられる人材を育てる必要がある。でも、企業はそれに気が付いていないのではないでしょうか」と、宮田氏は主張する。

 誰もやらないなら、自分が手本を見せる。それが宮田流の真骨頂だ。今、進めている東日本大震災の被災地復興プロジェクトもその一つである。宮田氏は、アーキテクチャやデザインの構築を、非線形の連立方程式を解くことだと定義する。船舶の設計は、速度や旋回性能、安全など複数のパラメータから成る連立方程式を解くことだ。目的に応じて、パラメータのバランスを考えながら解答を考える必要がある。これと同じだといういうわけだ。

宮田氏のチームは、震災の復興で価値の連鎖を提案している
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 復興プロジェクトでも、どのように「価値の連鎖」を生むかが連立方程式を解くカギだという。被災地に広大なメガソーラーの発電所を単に建築しただけでは、他の産業や雇用は生まれない。「復興」「エネルギー」「環境」「産業振興」という異なる命題の最適解を求める必要がある。複数の企業などを束ねて宮田氏が被災地に提案している案は、Liイオン2次電池を使った蓄電をキーテクノロジーとして、電池の製造工場や植物工場、水産加工業などのさまざまな産業を育成するものという。電気自動車を用いた、新しい交通システムの検討も進めている。

 「産業が被災しているので、雇用が大きな問題になります。それを復活させれば、生活の基本ができる。特に製造業の復興が大切でしょうね。そういうことをまとめて一緒にやらずに、単に元の姿に戻すだけでは、格差をなくすという議論だけで終わってしまう」

高い山に登るから、さらなる高みを望む

 東日本の復興は、失った社会インフラを原状回復するだけではなく、復興事業を通じて何か新しいものを生み出す起爆剤になってほしい。新しいことを試す絶好の機会でもある。挑戦を惜しまず、思い切ったプロジェクトを提案することで、関連する日本の企業もムラ社会から脱皮できるだろう。多くの企業や自治体が参加して、日本発の新しい地域社会のありかた、新しい社会モデルを提案できれば、そのモデルはアジア諸国をはじめとする海外でも適用できるかもしれない。

 宮田氏は、2012年春に東大を定年退職する。それを機会に、シンクタンク的な役割を果たす会社を立ち上げ、自らモデルを提案し実践する活動を始めようと考えている。「そのために、宮田さんの眼鏡にかなう人材はいますか」という質問を投げ掛けると、「日本にも優秀な人材がいますよ」という答えが返ってきた。外資系企業の出身者を中心に30歳代の元気のある人材が今、宮田氏の下で経験を積み始めている。

 今や理系の学生の間ですら、就職先として日本の製造業の人気はかなり下がっている。それでも、宮田氏のように明確なビジョンのあるプロジェクトを推進すれば、若者は日本に帰ってくる。「人間は、リスクを乗り越えて高い山を登り切るから実力が付く。もっと若者に権限委譲をすべき。小さな規模でもいいから、責任を与え、リスクを取らせ、成功体験をさせることが必要です」という宮田氏の指摘は重い。