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【対談】―― 宮田秀明 × 加藤幹之

失敗の体験で、人間は育たない

加藤 宮田さんは大学に戻る前の5年間、企業の技術者でした。当時、良くあることだったんですか。

宮田 「研究所にいた」という話は、よくあるかもしれません。でも、設計担当者が大学に戻るというのはあまり聞かないですね。

宮田 秀明(みやた・ひであき)氏
東京大学 大学院 教授。1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、1977年に東京大学に移り、1994年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「America's Cup」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など
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 東大の船舶関連の研究室で、例外は1講座だけありました。戦前の軍艦設計です。これは海軍技術者が来て教えていました。大学の先生は設計の経験がなく、学生を指導できないからです。それが戦後に商船設計の講座になり、企業の設計部長が教授になっていました。でも、私の研究室のように基礎研究の部門で、企業の開発担当者が教授になるのはめずらしいでしょう。

加藤 それで、大学に戻って波の研究を始めたわけですね。

宮田 29歳から始めた波の研究は、だいぶ周囲に叱られながら進めました。でも、これは誰も現象を知らなかったから、たまたま私が叱られたんですね。現象の理解を世界中が誤っていた。船の舳先に生じる波が非線形現象であることを私が発見して、設計法まで昇華しました。この設計法を世界中に広めたのは、30歳代です。40歳代には、大手の造船メーカーと一緒に商品を開発しました。その後に挑戦したのが、America's Cupです。

加藤 宮田さんは船舶だけでなく、社会科学系のプロジェクトでも活躍しています。

宮田 波も経済現象も根本は同じなんです。「本質は何で、どういうメカニズムで動いているか」ということをきちんと理解することの大切さは変わらない。経済現象は人間が絡むので難易度が高い。経済現象や社会現象は波以上に非線形な現象です。そのメカニズムを知らないままに、今でも古い線形手法を経済学は教えている。自然科学の世界から見ると不思議ですよ。

 プロジェクトを動かすには、ビジョンと現場を知ることの両方が必要です。ビジョンがあっても現場を知らなければ何もできない。日本メーカーは、ソリューションの開発に走りがちです。でも、ソリューションは大きな利益を生みません。本当に重要なのはビジョンに基づいたコンセプトとモデルであり、それを設計するデザインの力だと思います。

 先日亡くなった米Apple社のSteve Jobs氏がすごいと賞賛されたのは、コンセプトやモデルを念頭に製品を開発したからです。それが、Apple社の成功の要因でしょう。Jobs氏が経営から退くと株価が下がるというのは、コンセプトとモデルをデザインできる人材の価値が高いからです。これは他の世界でも同じです。今、手掛けている東日本の復興プロジェクトでも、コンセプトやモデルを作れる人材がいない。復興会議を立ち上げても、文書しか出てこない。だから、私がやるんです。

加藤 そういう人材をすぐに育てるのは、難しいですね。

宮田 簡単にはできませんね。でも、世の中には、そういう才覚を持った人材はいるんですよ。日本の製造業は、そうした人材を受け入れようともしないし、育てようともしないですが。

加藤 なぜでしょう。