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スマートグリッド、諸住哲 監修、1,680円(税込)、新書、159ページ、アスキー・メディアワークス、2010年9月
スマートグリッド、諸住哲 監修、1,680円(税込)、新書、159ページ、アスキー・メディアワークス、2010年9月
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 東日本大震災によって発生した福島第一原子力発電所の事故は、原発の安全神話を打ち砕いた。脱原発が時代のキーワードとなるなか、電力危機の解決方法のひとつとして「スマートグリッド」という言葉を最近よく耳にするようになった。

 今回は、「電力危機を即解消」と大きく帯に書いている、その名もずばり『スマートグリッド』を取り上げる。

 そもそも、「スマートグリッド」とは何なのか?

 監修者の諸住氏によれば、この言葉は技術を指す言葉かと思えば、政策や事業を表すこともあり、時には商品を示したりもする、とのこと。最近やっと統一概念として定義されつつあるのが「供給側と需要側の双方向性を持つ、電力と情報の新しいインフラ」という考え方だ。

 特に重要なのは「双方向性」ということ。従来は大規模発電所から電力を使用する末端の家庭、事業所に電気を一方通行で届ければよかったが、太陽光発電などが普及してくると、今までと逆方向に電気を送る必要が出てくる。

 また、「インフラ」という定義は広い。だから、「自然エネルギーの利用促進」も「送配電の効率化」も「エコカー開発」も「スマートメーター普及」も、すべてこの概念に含まれ、「スマートグリッドを構成する要素」とみなすことができるのだ。

 この広い範囲の技術とビジネスを本書はカバーしている。見開き2ページの右側に文章による解説を置き、左側に図を使った解説を配置した構成で、「スマートグリッドの概念とはどういうものなのか?」に始まり、「これから期待される蓄電技術とは何か?」まで、全部で68の問いと答えを収録してある。

 一般向け解説書としても書かれているので、燃料電池、太陽電池、蓄電池などの電池類や、スマートメーター、電気自動車等、スマートグリッドを構成する主要パーツについて、稼働原理や最新技術情報を丁寧に教えてくれる。本欄で先月紹介した『宇宙太陽光発電所』についても、「実現可能性はどれくらいあるの?」という疑問に答えている。

 また、「電力のロスは、電流の2乗に比例して大きく」なるから、「同じ電力を送るためには、電圧を上げればいい」という、配電工学の基礎の基礎を解説している箇所もあり、技術者だけでなく、経営層に属する読者にも目配りしていることが分かる。

 経営層も対象読者とし、経営の観点からも理解できるように書いているのは、これから普及するスマートグリッドには多方面に大きなビジネス・チャンスがあり、さまざまな経済波及効果が期待できるからだ。

 本書の第4章(CHAPTER 4)は「スマートグリッド市場のビジネスチャンス」と命名され、七つの事業分野、経済産業省が示した26の重要アイテムを紹介し、関連産業の裾野の広さを実感させる。また、メーター、EV充電器などの主要アイテムに、どんなメーカーが製品を供給しているか、どの分野が手薄なのかも教えてくれる。

 急速に普及が進むであろう新ビジネスの情報源として、また業界マップとして、本書の利用価値は高い。

 なお、本書は2010年9月の発刊なので、当然ながら原発事故後の電力事情に言及していない。スマートグリッドの将来についても、「電気のスマート化への流れは、遅かれ早かれ世界の電力システムに訪れると見ています」と、今読めば悠長に感じるとらえ方をしている。

 巻末に「スマートグリッドが作る未来を考える」と題する特別インタビューが載っているが、「未来なんか考えてないで、早く実現しようよ」と突っこみたくなるに違いない。

 なにしろ、電力危機が目前に迫っているのだ。今回の原発事故のおかげで、定期点検に入った原子力発電所の再稼働が困難になっている。全国の原発54基の中で現在稼働しているのがわずか6基で、残りも春までに定期検査に入ろうとしている今、本書の「未来」が少しでも早く来てくれることを願いたい。

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