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氷の体積が観測史上最小に

 前述のように、北極海の海氷は減り続けている。海氷は1年単位で融解と氷結のサイクルを繰り返し、北半球の夏の時期に1年の中で面積が最小になる。WMO(世界気象機関)によると、2011年9月の時点で、北極海の海氷の体積は4200立方キロメートル。これは、観測史上最小の規模である。

 またJAXA(宇宙航空研究開発機構)の調査によると、同時期の海氷の面積は453万平方キロメートルで、最小となった2007年の425万平方キロメートルに次ぐ、観測史上2番目の小ささとなった。つまり面積的には2007年よりはましだが、氷の厚みが激減しているのである。

 2011年に北極海の海氷の融解がこれほど進んだのは、温暖化の影響で、夏を迎える前の海氷の状態が大きく変化したからだと考えられている。古くて厚い氷(多年氷)がどんどん減って、若くて薄い氷(一年氷)の比率が多くなったということである。

 JAXAによると、北極海の海氷の減少傾向は、特に2003年以降、顕著に見られるという。またWWF(世界自然保護基金)などの研究チームによると、北極海の夏季の海氷は、今後10年以内に大半が解け、20年以内にはすべてが消滅する可能性があるという(図1)。

図1●2011年9月の北極海の海氷の分布 (資料:JAXA)
図1●2011年9月の北極海の海氷の分布 (資料:JAXA)

夏に、北極回りの航路が開通

 北極海の海氷減少による影響は、自然科学的なものだけにとどまらない。図2で分かるように、大陸沿岸部の海氷が大きく後退したため、カナダ北部の多島海を通る北西航路と、シベリア沿岸の北方航路が、夏に開通する頻度や期間が長くなった。

 例えば日本と欧州を結ぶ航路の場合、喜望峰経由の場合で1万5000カイリ、スエズ運河経由で1万カイリほどだが、北方航路を利用すれば7000カイリに短縮が可能だ。今後、北極海経由の航路を利用するための研究が各国で盛んになりそうだ。

図2●北極海の海氷の比較。左が1979年9月、右が2011年9月 (資料:JAXA)
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資源争奪への動きが活発に

 海氷の融解は、石油や天然ガス、ニッケル、コバルト、金などの豊富な資源が眠るとみられる、北極地域での採掘が可能になることも意味する。このため周辺国では、大陸棚の領有権獲得を目指す動きが活発になっている。

 ロシアは、200カイリの排他的経済水域(EEZ)を越える北極海の中央部について、その海底が自国の大陸棚であると主張する調査報告書を、国連大陸棚限界委員会(CLCS)に2012年に提出する考えを、2011年7月に表明した。海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)によると、EEZの領域を越えていても、海底が陸地からの延長である大陸棚と認められれば、海底の開発権が確保できるからである。

 こうしたロシアの動きに反発しているのがデンマークやカナダだ。ロシアが権益獲得を目指す北極海の海底は、それぞれ自国の沿岸と“地質学的に”地続きであるという見解を主張している。デンマーク、カナダはいずれも、数年後にはCLCSに申請できるよう科学調査を進めている。またロシアとカナダは、同地域での存在感を高めるため、自国軍の部隊を移設するなどして、示威行動を繰り広げている。

 このほか中国、日本なども資源獲得への関心は強く、北極で独自に調査を実施したり、積極的関与を提言するリポートを発表したりしている。北極には、領有権主張を凍結した「南極条約」のような条約が存在しない。このため、自国の資源・エネルギーの獲得を目指す「資源ナショナリズム」を背景にした各国の熾烈(しれつ)な権益獲得争いは、今後さらに白熱しそうだ。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。